頼迅一郎(平野周) 頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー

第27回「本当は誤解だらけの戦国合戦史 信長・秀吉・家康は凡将だった」(徳間書店)

頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー27

本当は誤解だらけの戦国合戦史 信長・秀吉・家康は凡将だった (単行本) 「本当は誤解だらけの戦国合戦史 信長・秀吉・家康は凡将だった」
(海上知明、徳間書店)

 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といえば、好きな歴史上の人物ベスト10、好きな戦国武将ベスト10には、必ず顔を出す人物といってよいでしょう。例えば以下(↓)のように。

【1位~10位編】「国民10万人がガチ投票!戦国武将総選挙」ベスト30の順位結果発表!|城びと

好きな歴史上の人物 2021年|日本の学校

そこでの好きな理由は、
織田信長(カリスマ性、改革者、新しいことを臆せずやったこと等)
豊臣秀吉((下層民からの)立身出世、(同)天下統一、発想が面白い等)
徳川家康(忍耐力と状況を見極める能力、部下の扱い方が上手、江戸時代の土台を築いた等)

 そして、現在NHK大河ドラマでは、「どうする家康」が放送されていますが、歴代大河ドラマでも登場回数がずば抜けて多いのが上記3人です。いずれも、実力で日本のトップに立ち、魅力的なキャラクターと併せて国民の人気が高いからでしょう。皆さんも3人のうち1人は、いや3人とも好きな方がいるかもしれません。
 しかしながら、本書の副題にあるように、もし3人が凡将だったとしたら、皆さんは驚かれるでしょうか。
 3人は天下を取ったではないか、と反論があるでしょう。厳密にいえば信長は違いますが、本能寺の変に倒れなければ天下統一を果たしていたことは間違いないでしょう。
戦国時代、天下人になるためには、まず、第一に合戦に勝利しなければなりません。3人は負けたときもありますが、結果的に勝ったからこそ天下人になったのです。合戦に勝って天下統一を果たした武将が、果たして本当に凡将なのでしょうか?
 そのことを3人が経験した合戦を具体的に分析しながら解きあかしてくれるのが本書なのです。
 併せて、タイトルにあるように「本当は誤解だらけ」の戦国の合戦史を、(1)桶狭間の戦い、(2)信長の美濃攻略と上洛戦、(3)姉川の合戦、(4)石山本願寺との死闘、(5)長篠の合戦、(6)手取川合戦、(7)秀吉の天才的軍事的三分野、(8)小牧・長久手の戦い、(9)朝鮮出兵。(10)城攻め、野戦も下手だった家康、(11)関ヶ原の戦い、(12)大坂の陣、の12のテーマに即して具体的に検討していきます。
 筆者は「戦略」という観点から上記12のテーマを分析していくのですが、最後に終章として「信長・秀吉・家康の本当の実力」についてまとめています。
 さて、その実力は如何に、というところでしょうが、3人が天下人になったのは事実です。筆者はその理由を3人の武将としての資質に求めずに「軍事以外の分野で傑出したものを持っていた」からだといいます。
 それは、信長の「目的合理性、擬制の本質を理解していること」、秀吉の「人心掌握、城攻め、大軍の利用法」、家康の「政略、忍耐力」ということのようです。とすると、最初に見た3人の好きな理由と大きな差はないように思います。
 合戦は大将一人でするものではなく、兵が行うものです。合戦に負け続けて天下人にはなれませんが、天下人になるためには、合戦そのものよりも、もっと必要な何かを逆に教えてくれているようです。
 さて、本書は合戦について具体的に述べているのが特徴です。そのため、一次史料ではないもの、具体的には軍記ものも使用しています。そのことに対する筆者のスタンスは以下の通りです。
「多くの軍記物語に共通の流れがあるとすれば、史実をもとにした骨格が存在しており、その骨格を取り出して分析すれば良いというものです。従って読み比べが必要です」
 筆者は多くの軍記ものを読み比べて、上記12のテーマについて叙述しています。それは同時に一次史料にばかりに頼りすぎる実証史学への警鐘でもあるようです。

 信長・秀吉・家康は、戦国の三大英雄といっても良い存在ですので、過去多くの作家が取り上げてきました。NHK大河ドラマでも視点を変えて何度も取り上げています。
 今回は具体的な作品は取り上げません。むしろ、これを契機に自分にとっての信長・秀吉・家康像を整理されてはいかがでしょうか。

←「頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー」へ戻る