シネコラム

第652回 アジャストメント

飯島一次の『映画に溺れて』

第652回 アジャストメント

平成二十三年六月(2011)
大泉 Tジョイ大泉

 

 映画作品は原作の小説とは別のものである。素晴らしい小説を忠実に再現しても、力が足りずに駄作に終わる映画もあり、大幅に改変して原作者が不満を抱こうとも、映画として面白ければ、それはそれで読者も観客も満足するだろう。
 私はフィリップ・K・ディックの小説が昔から大好きで、長編も短編も翻訳された文庫本を片っ端から読んだ。映画化された作品もいくつも観ている。有名なのは『ブレードランナー』と『トータル・リコール』だが、それ以外にもけっこう映画化されているのだ。『スクリーマーズ』『マイノリティ・リポート』『ペイチェック』『NEXT -ネクスト-』『アジャストメント』、これらは公開当初に鑑賞している。
 中でも短編『ゴールデン・マン』を映画化した『NEXT -ネクスト-』はあまりにも原作と違いすぎて、驚いた。それはそれで面白かったが。
 やはり短編『調整班』の映画化『アジャストメント』も原作から大きく離れている。
 世界をよりよく改変するために、現実に手を加えるチームがあり、彼らの些細なミスからその現場に出くわしてしまう男の物語だ。原作では普通の会社員が巻き込まれるだけの話だが、映画は主人公を政治家にして、男女が運命的に出会い、お互い一目惚れし苦難の末に結ばれるというロマンチックな恋愛活劇になっている。そこが映画なのだ。
 マット・デイモンふんする若手政治家は上院選で最初は有利だったが、宴会での悪乗りがマスコミに暴露されて敗北。その敗北宣言の直前にトイレで美女に出会って、彼女の助言ですべてを正直にさらけだし、勝てなかったものの誠実さに好感をもたれ、大衆の心をつかみ次期は当選確実。すべては運命を調整するチームによって仕掛けられていたのだが、手違いで彼は再びこの女性に巡り逢う。政治家として世界を平和に導くはずの彼が恋に夢中になっては、世界が救えない。そこでこのふたりを結びつけないために、調整員たちがあの手この手を使うサスペンス。調整員とは神の下で働く天使か。彼らが行き来するドアはあらゆる場所に通じており、まるでドラえもんの「どこでもドア」である。

アジャストメント/The Adjustment Bureau
2011 アメリカ/公開2011
監督:ジョージ・ノルフィ
出演:マット・デイモン、エミリー・ブラント、テレンス・スタンプ、アンソニー・マッキー、ジョン・スラッテリー、マイケル・ケリー

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