シネコラム

第651回 メリー・ポピンズ

飯島一次の『映画に溺れて』

第651回 メリー・ポピンズ


昭和五十年一月(1975)
大阪 梅田 ニューOS

 

 ジュリー・アンドリュースはブロードウェイのミュージカルスターとして『マイ・フェア・レディ』のイライザや『キャメロット』のグィネヴィアを演じていた。
 だが、映画化の際、イライザはオードリー・ヘプバーンに、グィネヴィアはヴァネッサ・レッドグレイヴにキャスティングされている。しかも、オードリーもヴァネッサも歌は吹き替えだった。ジュリーは歌も踊りも上手で、長身の美女なのに、映画ではお呼びがかからなかったのだ。
 彼女を映画の主演に初めて起用したのがウォルト・ディズニーで、映画はP・L・トラヴァース原作の『メリー・ポピンズ』。この作品でアンドリュースはアカデミー主演女優賞を獲得し、映画は日本でも大ヒットした。
 舞台は一九一〇年のロンドン。銀行員バンクス氏の家では夫人が女権拡張運動の活動家で、ふたりの子供ジェーンとマイケルの面倒をみるナニーが次々にやめる。
 映画が公開された当時、日本ではナニーという言葉は馴染みがなく、住み込みで子供の世話をする教育係は家庭教師と訳されていたように思う。
 バンクス氏がタイムズに求人広告を出そうとすると、ジェーンとマイケルが自分たちの希望を書いた紙を父親に渡す。が、バンクス氏はそれを破って暖炉に投げ込む。
 翌日、子供たちの希望通りのナニーが応募してくる。しかも開いた傘を手に雲の上から舞い降りて。彼女は魔法の力で子供たちの面倒をみて、あっという間に部屋を片付けたり、公園で子供たちと絵の中に飛び込んだり、やがて意固地で保守的で厳格なバンクス氏がものわかりのいい父親になる。そして風の方向が変わり、ポピンズは去っていく。
 ミュージカルとして「チムチムチェリー」「お砂糖ひとさじで」「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」など名曲が生まれた。
 半世紀後の二〇一八年に作られたエミリー・ブラント主演の『メリー・ポピンズ リターンズ』では、大人になったジェーンとマイケルが大恐慌時代にポピンズと再会する。

メリー・ポピンズ/Mary Poppins
1964 アメリカ/公開1965
監督:ロバート・スティーヴンソン
出演:ジュリー・アンドリュース、ディック・ヴァン・ダイク、デヴィッド・トムリンソン、グリニス・ジョンズ、カレン・ドートリス、マシュウ・ガーバー、エド・ウィン

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