シネコラム

第644回 リミットレス

飯島一次の『映画に溺れて』

第644回 リミットレス

平成二十四年四月(2012)
三軒茶屋 三軒茶屋中央

 

 普通、人は脳の機能の二十パーセント程度しか使っていないそうで、もしも百パーセント活性化したらどうなるか。この手の話で、私が一番好きなのは、ダニエル・キイスのSF小説『アルジャーノンに花束を』であるが、それのアクション映画版がスカーレット・ヨハンソンの『LUCY/ルーシー』、投資犯罪ものがブラッドリー・クーパー主演の『リミットレス』である。
 クーパーふんする主人公、作家志望の青年。何ヶ月もパソコンに向かっているが、本は書けず、金もなく、恋人には去られ、昼間から酒を飲んで町をうろうろ。別れた元妻の弟と道でばったり出会う。これが麻薬の売人をしていたチンピラで今は羽振りがよさそう。別れ際に薬を一錠もらう。頭の冴える新薬との触れ込み。そんな危険なもの飲めるか。でも、どうせもう失うものはなにもないんだ。
 思い切って飲み込むと、しばらくして頭が冴えわたり、観察力がすさまじく、しかも昔にちらっと聞いただけの知識さえ、適切に記憶から取り出し、整理して、あらゆることを一瞬に判断できるようになる。一晩で長編小説を書き上げ、翌日出版社に持って行くと、編集者はその完成度に驚嘆。と、まるで夢のような薬。でも一日経つと効果はなくなり、飲む前よりもひどい状態。売人の義弟を訪ね、薬を手に入れて、小説家としてではなく、投資家として財界の寵児となる。が、そこから犯罪に巻き込まれ、高利貸しのギャングに追われて高層ビルのベランダでふるえている。頭がよくなり、金持ちになっても、暴力にはなかなか勝てない。
 飲む前のだらしない服装でだらけて歩く場面と、いったん薬を飲みどんどんかっこよくなっていく場面と、両方演じ分けられるのは、ブラッドリー・クーパーがもともと美男でスタイルもいいからだ。ロバート・デ・ニーロが腹黒い老練な投資家で姿を見せる。
 こんな薬があれば、富と名声とやがては権力まで簡単に手に入るが、ひょっとして、一部の権力者は、すでに使っているかもしれない。

リミットレス/Limitless
2011 アメリカ/公開2011
監督:ニール・バーカー
出演:ブラッドリー・クーパー、ロバート・デ・ニーロ、アビー・コーニッシュ、アンドリュー・ハワード、アンナ・フリエル、ジョニー・ウィトウォース、トマス・アラナ

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