シネコラム

第643回 バートン・フィンク

飯島一次の『映画に溺れて』

第643回 バートン・フィンク

平成七年六月(1995)
高田馬場 早稲田松竹

 

 小説家や劇作家が登場する映画にはひねった作品がけっこう多い。映画脚本家が主人公なら、ウィリアム・ホールデン主演の二作『サンセット大通り』と『パリで一緒に』が好きだが、悪役や変人役の多いジョン・タトゥーロが主演の『バートン・フィンク』はコーエン兄弟の出世作であろう。
 一九四〇年代のブロードウェイ。庶民の大声のやりとりが遠くから聞こえる。やがて、それは舞台の上で展開される演劇であることがわかる。劇作家バートン・フィンクは袖で自作の舞台をつまらなそうに見ている。新聞評は好意的だが、作品に満足できないのだ。
 そこで、エージェントは彼をハリウッドの映画会社に売り込む。演劇の成功は作者を少しは有名にするが、金にならない。映画で富を得れば、好きな作品に打ち込める。
 ニューヨークからロサンゼルスへ。安ホテルに閉じ込もってシナリオを書くフィンク。映画会社を牛耳るユダヤ人のボスはフィンクを気に入り、下世話なレスリングの物語を注文する。が、なかなか書けない。ホテルの隣室のセールスマン、巨漢のチャーリーと親しく話を交わす。撮影所で著名な大物作家と知り合うが、これがアル中の能なしで、秘書兼愛人のオードリーが作品を書き直していたことがわかる。書けないフィンクはオードリーに助けを求め、彼女は部屋にやって来ると、そのまま一夜を共にする。朝目覚めると、横で裸で寝ているオードリーが、血まみれで死んでいた。隣室のチャーリーが心配そうに覗いたので助けを求める。大男の彼は死体を始末し、ニューヨークへ商売に出かける。
 いろんな事件があって、チャーリーの正体がわかり、ようやく、フィンクはタイプライターに向かい、一気に書き上げる。会心のシナリオ『大男』を社長に見せると、レスラーが自分の魂と戦う映画なんてだれが観たがるかと、さんざんけなされ、不採用となる。
 隣室の強面で人のよさそうな不気味な大男がジョン・グッドマン。ホテルのボーイがスティーヴ・ブシェミ、ジュディ・デイビス演じる作家の秘書の名がオードリーというのは『パリで一緒に』のヘプバーンへのオマージュだろうか。

バートン・フィンク/Barton Fink
1991 アメリカ/公開1992
監督:ジョエル・コーエン
出演:ジョン・タトゥーロ、ジョン・グッドマン、ジュディ・デイビス、マイケル・ラーナー、ジョン・マホニー、トニー・シャルーブ、ジョン・ポリト、スティーヴ・ブシェミ

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