シネコラム

第639回 サイコ

飯島一次の『映画に溺れて』

第639回 サイコ

平成四年十二月(1992)
銀座 銀座文化

 

 ロバート・ブロックの短編小説『道を閉ざす者』の中に、精神病院に入院している『サイコ』の作者が精神科医と話し合う場面がある。自分は母を憎んでもいないし、支配されてもいない。女装趣味もないし、車を沼に沈めたこともない。雇い主の金をくすねたり、逃亡したこともない。シャワーより風呂が好きだ。そんなことを延々と語る。
 ブロック原作の映画『サイコ』はヒッチコックの代表作で、前半は犯罪ドラマ。ジャネット・リーふんするマリオンは妻子あるサムと不倫していて、社長から銀行に預けるように託された現金四万ドルを出来心で横領し、車で逃走する。サムのもとに向かう途中、雨で旧道に入り、一軒の寂れたモーテルに部屋をとる。
 経営者のノーマンは若く、おどおどしている。これが二枚目のアンソニー・パーキンス。他に客はなく、モーテルの隣の自宅にマリオンを食事に誘おうとして老いた母に叱られる。ノーマンは仕方なく食事の盆をマリオンの部屋に届け、自分と母のことを少し話す。
 そして有名なシャワーのシーン。マリオンがシャワーを浴びていると、カーテンの向こうに黒い人影。ナイフを振りかざした女にマリオンは刺し殺される。浴槽に流れる血。この場面はブライアン・デ・パルマが『ファントム・オブ・パラダイス』でほとんどそっくり真似ていた。殺人者はおそらくノーマンの母であろうと思われる。きれいに後始末するノーマン。浴室を掃除し、死体を車ごと沼に沈める。
 マリオンが金を持ち逃げしたことで、妹のライラが姉の愛人サムを訪ねて問い詰める。そこへ会社から雇われたマーティン・バルサムの探偵が現れ、協力を求める。探偵は調査の結果、件のモーテルに行きつき、ノーマンの母から話を聞き出そうとする。探偵からの連絡が途絶えたので、ライラとサムもモーテルへ行き、そこで事件の真相がわかる。
 アンソニー・ホプキンスがヒッチコックを演じた映画『ヒッチコック』に『サイコ』撮影の裏話があり、映画館でいかに観客を怖がらせる工夫をしたかも描かれている。ホプキンスのヒッチコックよりも、ジェームズ・ダーシーのパーキンスがそっくりだった。

サイコ/Psycho
1960 アメリカ/公開1960
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー、ヴェラ・マイルズ、ジョン・ギャヴィン、マーティン・バルサム、ジョン・マッキンタイア、サイモン・オークランド

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