シネコラム

第638回 サンクスギビング

飯島一次の『映画に溺れて』

第638回 サンクスギビング

令和六年一月(2024)
新宿歌舞伎町 TOHOシネマズ新宿

 

 登場人物たちが次々と残酷に殺されるだけのホラー映画はどうも好きになれない。中でも『13日の金曜日』は駄目である。無意味に理不尽なだけで、殺される若者たちも全然賢くない。これがけっこうヒットしたのは残虐な描写を好む観客が多いからだろう。
 ロバート・ロドリゲス監督の『プラネット・テラー』とクエンティン・タランティーノ監督の『デス・プルーフ』の二本立てが『グラインドハウス』として公開されたとき、遊びで嘘の予告編が流れた。ダニー・トレホ主演の『マチェーテ』には笑ったが、これが後に長編映画に作られて驚いた。今度はもうひとつの予告編『感謝祭』が。
 感謝祭はアメリカで十一月に行われる祝日で久々に家族や親戚が集まって夕食に七面鳥などを食べるそうだ。
 ある年の感謝祭の日に町の大型ショッピングセンターで大安売りのセール。開店を待つ群衆。そこへ社長の娘がボーイフレンドや学校の友達数人で従業員通用口から店に入り、品物をこれ見よがしに物色している。ガラス戸越しにそれを見て怒る客たち。警備員はふたりしかいない。客たちの先頭のカップルが騒いで扇動し、暴徒化した群衆がガラス戸を割って侵入。カートに轢かれたり、群衆に踏みつぶされたり、死者の出る大惨事となる。
 一年後の感謝祭。プリマスに入植した清教徒の指導者ジョン・カーヴァーの衣装と仮面を被った何者かによって、次々と町の人たちが残酷に殺され、その死体を並べた食卓の映像がネットに流れる。被害者の共通点は一年前の感謝祭で引き起こされた悲劇のきっかけになった人たち。死者が何人も出ながら、事故で片付けられ、だれも咎められていない。
 それをジョン・カーヴァーに扮した殺人鬼がひとりひとり血祭にあげる。感謝祭の食卓を飾るのはカートで女性を轢き殺したウェイトレス、群衆を恐れて逃亡した警備員、並ばずに先に店に入った若者たち、無謀なセールスを行った社長夫妻。
 絵になる連続猟奇殺人ホラーだが、オカルトではなくミステリであり、犯人も動機もきちんと考えられているので、好感がもてる。

サンクスギビング/Thanksgiving
2023 アメリカ/公開2023
監督:イーライ・ロス
出演:パトリック・デンプシー、ネル・ヴェルラーク、アディソン・レイ、ジェイレン・トーマス・ブルックス、マイロ・マンハイム、リック・ホフマン、ジーナ・ガーション

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