シネコラム

第637回 第七天国

飯島一次の『映画に溺れて』

第637回 第七天国

平成三十年七月(2018)
駿河台 明治大学アカデミーホール

 

 最初の長編トーキー作品『ジャズシンガー』がアメリカで公開されたのが一九二七年、それまでは映画館で上映される映画はサイレントだった。生演奏が行われ、観客は画面に描かれた説明やせりふを目で追う。日本では活動弁士が画面の状況を説明し、登場人物に合わせてせりふを語った。初期は映画を活動写真といったので、それを解説する弁士が活動弁士、略して活弁であり、わが国独特の話芸である。
 一九二七年の『第七天国』は『ジャズシンガー』より少し早く、まだサイレントであり、同年に日本でも公開された。私はこの映画を今世紀に入ってから二度観る機会を得た。最初は二〇一八年、明治大学アカデミーホール、活動弁士の入らない欧米式で、ピアノ演奏は柳下美恵。二度目は二〇二三年、新宿紀伊國屋ホールでの澤登翠活弁リサイタル。
 アメリカ映画だが、二十世紀初頭のパリの下町が舞台。道路の地下で下水清掃の仕事をしているチコは常に上を向き、胸を張って生きている。いつか地上の道路清掃員になるのが目下の夢。一方、両親をなくして貧民街で暮らす姉妹。飲んだくれで働かない姉は、妹のディアーヌをこきつかい虐待している。
 道路清掃員に抜擢されたチコが路上でを仲間と食事していると、ディアーヌが姉に鞭打たれながら逃げてくる。正義感の強いチコは彼女を助け、姉を追い払い、行き場のない彼女を自分のアパートに引き取る。が、寝室は別。チコはディアーヌに希望を語る。
 チコに感化されたディアーヌは探し当てて連れ戻そうとする姉から鞭を奪い撃退する。やがてふたりは結ばれ結婚。だが第一次大戦の勃発で、チコは戦地へと駆り出され、ドイツ軍の砲弾を浴びる。パリで夫を待つディアーヌに悲しい知らせが届くが……。
 ディアーヌ役のジャネット・ゲイナーはこの作品で第一回アカデミー賞の主演女優賞を獲得し、スターとなり、その後トーキーの『スタア誕生』でも主演している。
 ピアノ演奏も活弁も無声映画の素晴らしさを引き立てるのに欠かせない芸術であると実感する。タイトルの『第七天国』は「だいしちてんごく」と読むのが正しいとのこと。

第七天国/7th Heaven
1927 アメリカ/公開1927
監督:フランク・ボーゼイギ
出演:ジャネット・ゲイナー、チャールズ・ファレル、アルバート・グラン、デビッド・バトラー、マリー・モスキニ、グラディス・ブロックウェル、ベン・バード

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