シネコラム

第635回 ALWAYS 三丁目の夕日’64

飯島一次の『映画に溺れて』

第635回 ALWAYS 三丁目の夕日’64

平成二十四年一月(2012)
渋谷 TOHOシネマズシネタワー4

 

 最初の東京オリンピックが開催された一九六四年に私は小学生だった。日本は高度経済成長期であり、三波春夫の「五輪音頭」とともにオリンピックは大いに盛り上がった。
『ALWAYS 三丁目の夕日』の第三作目『ALWAYS 三丁目の夕日’64』は第一作から六年後の設定であり、背景に東京オリンピックがある。夕日町三丁目の人たちにはみな、あれから六年の歳月が流れているのだ。
 東京オリンピックに合わせて、町並みが整備され、東京と大阪を結ぶ新幹線もようやく開通した。
 六年前に集団就職で出てきて今では優秀な自動車整備工となった六子が、年頃となって近所の病院の若い外科医と恋をする。鈴木オートではいち早くカラーTVを購入、どこの家庭でもモノクロTVが普及した頃でカラーはまだ珍しかった。一平は高校生となり、若大将に憧れエレキギターを練習している。
 茶川竜之介は踊り子のヒロミと結婚し、駄菓子屋の一部が飲み屋になっていて、淳之介は東大めざして受験勉強している。竜之介は相変わらず少年雑誌に冒険小説を書いてるが、少年雑誌ではだんだんと漫画のスペースが増え、竜之介の少年小説は連載打ち切りとなる運命である。
 日本が古き良き懐かしい時代と呼べるのはこの東京オリンピックぐらいまでで、そのあとの一九六〇年代末になると、学生運動やアングラ世代、公害の蔓延など、三丁目の人たちとは無縁の現実になってしまう。淳之介が連合赤軍に加わっていたり、一平が新宿でフーテン族になっていたり、住宅ブームで開発されて、ビルの立ち並ぶ殺風景な町並みになっていたり、私はそんな夕日町三丁目は見たくない。
 思えば、金権汚職まみれの権力者たちが国民を無視し、私利私欲のために推進した二十一世紀の東京オリンピックは、一九六四年の素晴らしいオリンピックに泥を塗ったのだ。

ALWAYS 三丁目の夕日’64
2012
監督:山崎貴
出演:吉岡秀隆、堤真一、小雪、薬師丸ひろ子、堀北真希、もたいまさこ、三浦友和、須賀健太、小清水一輝、マギー、温水洋一、ピエール瀧、森山未來、大森南朋、高畑淳子、米倉斉加年、蛭子能収、正司照枝

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