頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー47
「仕事と江戸時代 ――武士・町人・百姓はどう働いたか 」(戸森麻衣子、ちくま新書)
「働き方改革」が叫ばれてからずいぶん経ちます。私たちの若い頃は、「24時間戦えますか」の時代でした。アフターファイブにやりたことがあった私はずいぶん苦しんだものでした。
働き方改革関連法が施行されたのは2019年4月(一部)です。その背景には、急激に進む少子高齢化社会の影響があります。とはいえ、働き方改革が叫ばれてから、「お仕事」について考える機会も増えたのではないでしょうか。
そうした中、近代以前の「お仕事」はどうだったのだろう、という疑問を持った歴史好きな方もおられると思います。私もその一人ですが、本書は前近代とくに江戸時代のお仕事について述べたものです。
本書の構成は以下の通りです。
はじめに
第1章 「働き方」と貨幣制度
第2章 武家社会の階層構造と武士の「仕事」
第3章 旗本・御家人の「給与」生活
第4章 「雇用労働」者としての武家奉公人
第5章 専門知識をもつ武士たちの「非正規」登用
第6章 役所で働く武士の「勤務条件」
第7章 町人の「働き方」さまざま
第8章 「史料」に見る江戸の雇用労働者の実態
第9章 大店の奉公人の厳しい労働環境
第10章 雇われて働く女性たち
第11章 雇用労働者をめぐる法制度
第12章 百姓の働き方と「稼ぐ力」
第13章 輸送・土木分野の賃銭労働
第14章 漁業・鉱山産業における働き手確保をめぐって
おわりに―近代への展望
江戸時代は身分社会です。「士農工商」の身分があったといわれています。このうち「工」と「商」は区分がつけにくく、最近は「町人」として「工商」を一括りにする考え方もあるようです。
本書は副題の通り、第2章から第6章までが武士の、第7章から第11章までが町人の、第12章から第14章までが百姓の働き方の実情について述べています。
ちなみに、百姓=農民ではありません。百姓とは、農民を含む村の工業、輸送、土木、鉱業に従事する者たちの総称と考えた方が良いようです。武士、町人、百姓という捉え方が、実態に即しているものと思われます。
第1章では中世以前の、おわりにでは近代にも触れており、ちょうど「仕事」についての俯瞰、通史になっているのも嬉しい限りです。このような歴史の見方は、従来にはなかったもので、より庶民レベルの歴史を明らかにしてくれるように思います。歴史好きには堪らない再構成ではないでしょうか。
筆者の戸森さんは、別に「江戸幕府の御家人」という専門書があり、第15回で紹介させていただきました。かなりボリュームのある本でしたが、多様な御家人の職務や生活を明らかにしています。
その成果は、もちろん本書にも結実されていると思いますが、新書という性格から、より一般的に、より分かりやすくなっているように思います。
私も本書で、かつての映画やドラマでよく観た鉱山労働者の側面を改めて認識しました。「佐渡送り」を頭では理解していましたが、そのことと「仕事」を結びつけて考えたことがなかったからです。
章ごとの紹介は省略しますが、武士のみでなく町人(商人を含む)の世界にも新たな発見があることと思います。歴史と仕事に興味のある方にお勧めの本です。
江戸時代と「仕事」というと、「仕事人」というドラマを思い浮かべる方も多いことでしょう(笑)
その原案は、池波正太郎の『仕掛人・藤枝梅安』だという噂があります。
なんだか三段論法じみていますが、今回はその仕掛人シリーズを紹介させていただきます。
https://bookclub.kodansha.co.jp/title?code=1000012090