頼迅庵の新書・専門書ブックレビュー43
「山内上杉氏と扇谷上杉氏 (対決の東国史 5)」
(木下聡、吉川弘文館)
本書は対決の東国史シリーズの5冊目にあたります。対決の東国史は、中世の東国史は覇権争いの登場人物がめまぐるしく入れ替わるため、ひとつの歴史の流れとして把握しにくい面があることから、特定の時代を代表する2つの武家の強調と相克の様相を通じて、中世東国の政治史をわかりやすく叙述することを目指して刊行されたものです。
シリーズは全部で7巻。その対決は以下の通りです。
第1巻 源頼朝と木曽義仲
第2巻 北条氏と三浦氏
第3回 足利氏と新田氏
第4巻 鎌倉公方と関東管領
第5巻 山内上杉氏と扇谷上杉氏
第6巻 古河公方と小田原北条氏
第7巻 小田原北条氏と越後上杉氏
人物の対決が第1巻、家職の対決が第4巻、家職と氏族との対決が第6巻、その他は氏族と氏族の対決となっています。
重複する氏もありますが、対決する相手が異なるため別な見方が出来ることと思います。
中世の関東では、登場する人物が多く複雑に絡み合うため、なかなか解りづらいところがありますが、対決を軸にすればかなり理解しやすくなると思います。
そのうち本書は、山内上杉氏と扇谷上杉氏の対決の歴史です。
上杉氏は、勧修寺流藤原氏の出自とされ、宗尊親王が鎌倉幕府の将軍として鎌倉に下向するとき従って、関東に根をおろしたといわれています。重房の娘が足利頼氏の室となり、さらに、重房の子頼重の娘(清子)が足利貞氏の室となり、その子尊氏が将軍となったことから発展しました。
昔は邸のある鎌倉の地を冠して、山内、犬懸、扇谷、詫間を上杉4家と呼んでいましたが、最近はそのように説明することはなくなったようです。
4家のうち惣領家は山内上杉氏です。また、関東管領を輩出したのは、山内上杉氏と犬懸上杉氏のみです。
扇谷上杉氏は、家宰の太田道灌を謀殺した定正が有名で、山内上杉顕定と長享の乱と呼ばれる合戦を繰り返しました。
「対決」というなら、山内上杉顕定と扇谷上杉定正以降のことになります。もともと扇谷上杉氏は、山内上杉氏を輔佐してきたのです。
扇谷上杉氏は、上杉禅秀の乱で犬懸上杉氏が衰えてから勢いを得えるのですが、なぜ、そうなったのか、そして、どうして対決せざるをえなくなったのか、本書で詳しく述べられています。両上杉氏の末路とともに……。
併せて、本書は両上杉氏の対決の歴史的意義にもふれています。
もう少し系図や地図があればさらに理解が進んだものと思われます。