森川雅美・詩

明治一五一年 第15回

森川雅美『明治一五一年』

明治一五一年 第15回

気がつけば傍らに
いる誰かのうすれかけた
小さな影が
まだ違う記憶の水際
に漂う呟きを掌に
過去も今の時間だから
包み込むならば
消えた人たち
の静かな太ももが
不意にかたわらを通り
積み重なる一五一年
の過去も今の時間だから
の時の間の
埋もれた暗部へと誘う
弱まる呟きすら
流されいく川辺の
葬列を人知れず囲む
過去も今の時間だから
実らない無数の
魂の行方はひとつ
ひとつのままに溶け
その後は誰一人
還りえない永遠の別れで
過去も今の時間だから
あったのだと
傷付いた一五一年の
光の眩しさが
眼中に痛く握る掌の
気がつけばいくつもの
も過去も今の時間だから
生きる家並み
が繰り返し消えた
白昼の見えない目に
なり染みていく
数知れぬ血を紡ぎ
過去も今の時間だから
止まらず書き足され
つづける記録
の始まりの行を砕く
晒される人の目
は長い眠りに呟かれる
と過去も今の時間だから
一五一年を撫で
朽ち淀みいく野や海底
の骨を鳴らす
切れ切れの囁きも
連なる俯いた列になる
を過去も今の時間だから
のなら忘れられた
指先も流れろ
と終わらない歪みが
ゆらぐ色褪せた背中に
細い糸絡め
過去も今の時間だから
気がつけばもはや
語られない一五一年
の切断面を繋ぐ
誰かが歩いた野の外れに
刻印される新しい
過去も今の時間だから
足首を晒し
孤独は誰も知らず
湧き立ちすぐに消えて
いく密やかな
悲しみとして誰か
の過去も今の時間だから
の身体の中に沁みいく
微塵の骨片を
夜の空の果てに
散りばめていく一五一
年の足は削がれ
過去も今の時間だから
残るうっすらとした
光沢は貼りついた
形のまま永らえ
今もなお弱まりつづける
片側だけの目
も過去は今の時間だから
の裏側に刺さる
死に得ない亡骸の
面影はひとつずつ散り
ながらも緩み
物語られること
過去は今の時間だから
のない一五一年の息遣い
はなおも続き
気がつけば口移しの水滴
が喉元を潤し
消えない一瞬だ
過去も今の時間だから

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