森川雅美・詩

明治一五一年 第14回

森川雅美『明治一五一年』

悲鳴は失われた形になるだろう
わだかまる意識のかたちは水を剥ぐ
骨髄の中心まで柔らかく穿つ
悲鳴は失われた形になるだろう
死者の言葉はいつまでも終わらぬ
明治元年の唇の多くの掌もまた戻る
悲鳴は失われた形になるだろう
遠くに吊るされる人影の傾きを開く
見えない記憶の歪が奥底まで崩す
悲鳴は失われた形になるだろう
ずれる明治元年の筋肉を噛む
追われる小さな背中の叫びは届かず
悲鳴は失われた形になるだろう
瞬時の街並は今も途切れずに燃ゆ
魂のかすれいく行方を彼方まで運ぶ
悲鳴は失われた形になるだろう
明治元年の名前はいつまでも滅ぶ
かたわらからまだ顧みられずに消ゆ
悲鳴は失われた形になるだろう
帰らない足先に祈りは満ちず
静かのてのひらの動きが常に止む
悲鳴は失われた形になるだろう
人の内側の水位は救いもなく増す
かすれいく明治元年の名前は結わく
悲鳴は失われた形になるだろう
揺らぐ首筋の抜殻を柔らかく綴る
首から上の視線はいつまでも去らぬ
悲鳴は失われた形になるだろう
明治元年からのより深い淀を断つ
残存する声たちの野になお腕が凪ぐ
悲鳴は失われた形になるだろう

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