森川雅美・詩

明治一五一年 第16回

森川雅美『明治一五一年』

明治一五一年 第16回

誰かの背中を
眺めている誰かの
背中を見詰める目の
内側に広がる荒野
はいまだに傷付いて
いく声の端の
踏み外す一瞬である
なら東征する
数えきれぬ足裏の
すでに忘却される一五一年
の記憶される土の香りの
畔から途切れなく
つづく面影の後に
発光する手足の
崩れていく背中を
崩れていく背中
が掬う柔らかさの
焼失する内臓と
街が見失われるすぐ
前に語る河川の
細分される一五一年
からなおも
取り残す一日の時の
重なる血肉が爛れ
ながくくすぶり続ける
歪な歩行の
絡まる色彩は海流
へと注ぎこみ点と点を
結ぶ無数の
駆け抜く背中の静けさに
駆け抜く背中が
映る交点の
孤独に刻み込まれる一五一
年の朽ちかけた掌の裏の
運ばれる陽陰まで
跋扈する閾域
へと南下する指先の
細細とした糸を
結い絡める
青空に刺さる途上の穴の
奥底から引き出される
切れ切れの影が
騒めく海溝の
踏みつける一五一
年の背中を踏みつける
別の背中の
足首は平坦になり
遥かな道筋を辿り
つづける嗚咽の
さらに抜け落ちる
散らばる魂
の破片が渦巻く動きの
裸形の中空に弾ける
失われた記憶の
淡淡と輝く先の
静かになる一五一年
の水が見渡す限り
広がる晴天の

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