シネコラム

第646回 ヘアスプレー

飯島一次の『映画に溺れて』

第646回 ヘアスプレー

平成十九年十一月(2007)
有楽町 丸の内プラゼール

 

 ブロードウェイのミュージカル劇がヒットして、映画化されることは珍しくない。『マイ・フェア・レディ』や『サウンド・オブ・ミュージック』や『ラ・マンチャの男』や『キャバレー』、私はどれも好きだ。逆に『キンキーブーツ』など、先に映画があり、それがブロードウェイの舞台劇になることもある。『プロデューサーズ』は最初映画で、ブロードウェイでミュージカルになり、さらにそのミュージカルが映画化された。それと同じ経緯のあるミュージカル映画が『ヘアスプレー』である。
 一九八八年に作られたジョン・ウォーターズのカルト映画が二〇〇二年に舞台化され、さらに二〇〇七年にジョン・トラボルタ主演で映画になった。
 設定は一九六〇年代の初め、まだ白人による有色人種差別が公然と行われていた時代。そして一般家庭にTVが普及しはじめた頃。ボルチモアの高校生トレイシーは背が低くてかなり太っている。授業が終わると親友のペニーと家に飛んで帰り、TVのコーニー・コリンズ・ショーを夢中になって見ながら、画面に合わせて歌って踊る。
 ショーのオーディションを受けたため学校を遅刻し、居残り組で黒人たちと仲良くなり、その影響で動きのあるダンスを習得して、意地悪な美女の母子を押しのけて、アイドルの道を進むという夢のあるストーリーなのだ。
 だが、名前がトップに大きく出ているのに主演のジョン・トラボルタが見当たらない。ポスターにもトラボルタの写真がない。驚いたことに、トレイシーの母親エドナ。相当に太った中年女性の役がトラボルタだったのだ。最後まで気がつかなかった。
 トラボルタといえば、ギャングや警官や軍人といった男っぽい役が多い。それがまさか太ったお母さんの役だなんて。さらに驚いたのは、お父さん役がクリストファー・ウォーケン。トラボルタとウォーケンが善良な夫婦の役で歌って踊ってデュエットする。ふたりの中年夫婦ぶりを見るだけでも値打ちのあるミュージカルである。

ヘアスプレー/Hairspray
2007 アメリカ/公開2007
監督:アダム・シャンクマン
出演:ニッキー・ブロンスキー、ジョン・トラボルタ、ミシェル・ファイファー、クリストファー・ウォーケン、ジェームズ・マースデン、ブリタニー・スノウ、アマンダ・バインズ、アリソン・ジャネイ、クイーン・ラティファ、ザック・エフロン

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