シネコラム

第647回 ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜

飯島一次の『映画に溺れて』

第647回 ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜


平成二十四年四月(2012)
府中 TOHOシネマズ府中

 

 一九六〇年代、アメリカ南部のミシシッピーは黒人差別が根強く残っている地域。白人の主婦は料理も作らず、掃除もせず、自分の子どものオムツを替えることさえせず、友人たちとお茶を飲んで、おしゃべりするだけ。本来主婦のやるべき家事労働いっさいを低賃金でこなすのが黒人のメイドなのだ。奴隷制度の時代から、これが南部の裕福な家庭のあり方だった。
 都会の大学を卒業して南部の実家に戻った作家志望のスキーターは、地元の新聞社の家庭欄を受け持つことになり、友人宅のベテランメイド、エイビリーンから家事の方法を聞きながら、ふと思いつく。黒人メイドが仕事や雇い主についてどんなことを考えているのか聞いてみたいと。だが、これはとても危険なことだった。人権に目覚めた黒人が白人についてとやかく言うのは、南部では犯罪であり、命にかかわる。
 スキーターを自宅に招いたエイビリーンは同じテーブルでいっしょにお茶を飲む白人を見て、言う。白人のお客は初めてなの。公共の場所では、学校も劇場もバスも白人と黒人は別々で、メイドは雇われた家でも黒人専用のトイレしか使えない。が、横柄な雇い主に見下され、こきつかわれる現状から、メイドたちが声をあげる。
 配役も豪華である。主演の抑えに抑えた黒人メイド、エイビリーンにヴィオラ・デイヴィス。スキーターがエマ・ストーン。保守反動、パワーハラスメントの権化、若い主婦仲間のボスで堂々たる敵役ヒリーがブライス・ダラス・ハワード。このボスにひどい仕打ちをされ、インタビュー仲間に加わるひょうきんなメイドがオクタヴィア・スペンサー。ボスの母親で気のいい老女がシシー・スペイシク。都会から嫁いで来て黒人に偏見がなく、若い主婦たちから仲間はずれにされるセクシー美女にジェシカ・チャステイン。
 男の影は薄いが、これら女優たちの名演技を見るだけでも、おいしい料理を存分に味わったときのように満ち足りた気分である。風俗が見事に再現されていて、まるであの時代に作られた映画を観ているようだが、あの時代には決して作られなかっただろう。

ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜/The Help
2011 アメリカ/公開2012
監督:テイト・テイラー
出演:ヴィオラ・デイヴィス、エマ・ストーン、ブライス・ダラス・ハワード、オクタヴィア・スペンサー、ジェシカ・チャステイン、シシー・スペイシク、アリソン・ジャニー

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