シネコラム

第619回 ブロードウェイと銃弾

飯島一次の『映画に溺れて』

第619回 ブロードウェイと銃弾

平成七年四月(1995)
池袋 文芸坐2

 

 一九二〇年代、禁酒法時代のブロードウェイ。失敗作が続いて世に認められない劇作家デヴィッド。プロデューサーから新作にスポンサーがついたとの知らせ。ところがこれが暗黒街のボスで、情婦の踊り子オリーブを準主役に起用するよう強要する。断れなくて、悪魔に魂を売ったと嘆きながらも、憧れの大女優ヘレンが主役を演じることでとりあえず、承諾。オリーブはスターになりたいという野心の塊だが、無知で演技の才能は皆無。オリーブが浮気しないようボスの子分のチーチが目付け役としてつき、リハーサルが始まる。ヘレンはさすがに貫祿充分だが、オリーブはあまりにひどい。客席で稽古を見ているチーチも呆れる。戯曲にも問題があるようで、俳優たちが立ち往生していると、突然、チーチが打開策を提案する。それが実に適切なのだ。
 デヴィッドは面白くないが、酒場で飲んでいるチーチを見つけ話をすると、今回の芝居の場面転換などアイデアが次から次へと出て、デヴィッドを驚かせる。学校も満足に出ていない無学なギャングの子分が思いもよらぬ劇作の才能を秘めていた。どうしてそんなにアイディアが出るのかと問うと、頭を使って考えるからだと言う。たしかに天才が頭を使えばそうだろうが、凡人のデヴィッドはいくら苦しんでも書けない。内緒で助言を求め、チーチはどんどんストーリーを書き換え、せりふまでふくらませて戯曲を超一級品に完成させる。ブロードウェイ公演の前にボストンで試演が行われるが、舞台は申し分なく、ヘレンをはじめ出演者もスタッフも、みな劇作家としてのデヴィッドの才能を称賛する。たまたまオリーブが休演し、代役が演じたため最高だったのだ。
 ほとんど自分が作ったとも言える作品に愛着を持つチーチ、それをぶちこわすのは最悪の大根女優オリーブ。チーチはブロードウェイでの公演を成功させる唯一の手段を選ぶ。オリーブの代りに代役が出ればいい。そのためには邪魔者を消すしかない。銃声が効果音となり舞台は大絶賛されるが、デヴィッドは婚約者と田舎に帰って平凡に暮らす道を選ぶ。

ブロードウェイと銃弾/Bullets Over Broadway
1994 アメリカ/公開1995
監督:ウディ・アレン
出演:出演:ジョン・キューザック、ダイアン・ウィースト、ジェニファー・ティリー、チャズ・パルミンテリ、メアリー=ルイーズ・パーカー、ジャック・ウォーデン、ジョー・ヴィテレリ、ロブ・ライナー、トレイシー・ウルマン、ジム・ブロードベント

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