シネコラム

第613回 伊賀忍法帖

飯島一次の『映画に溺れて』

第613回 伊賀忍法帖

平成二十二年十一月(2010)
浅草 浅草名画座


 かつて浅草の六区に一九七〇年代前後の懐かしい日本映画を三本立てで上映している映画館が二館あった。浅草名画座と浅草新劇場である。三本の組み合わせは時代劇、任侠映画、喜劇、アクション、娯楽映画がなんでもありの宝庫で、観音様にお参りしたあと、三船敏郎とフランキー堺と藤純子を一日で堪能することも可能だった。
 この日のお目当ては時代劇『伊賀忍法帖』で、山田風太郎原作の戦国忍者もの。戦国時代の悪役といえば松永弾正久秀で、氏素性ははっきりしないが、下克上で成り上がって大名に出世するあたり、後の豊臣秀吉と似ているのに、天下を取るまでには至らず、途中で信長に殺され日本史上の悪役のひとりとして名を残す。が、それは後の話。
 この弾正のところへ、ある日、奇怪な人物が現われる。果心居士と名乗る妖術使い。これが松永弾正に天下を取るための秘術を授ける。松永の主家である三好義興の正室右京太夫は足利の血を引く姫。これをわがものにすれば天下取りは叶う。そのためにこの右京太夫をとりこにする惚れ薬を作れ。材料は右京太夫の双子の妹篝火が処女なので、これを手込めにし、その流す涙を練って作るという凄まじい話なのだ。篝火は伊賀の里で忍者の修行をしており、これに惚れているのが同じ伊賀者の笛吹城太郎。
 惚れた幼なじみの篝火を果心居士の手先の怪僧たちに拉致され、自らは重症を負う。篝火は強姦されるも、命からがら逃げて、城太郎の目の前で命を落とす。
 城太郎は復讐を誓い、怪僧たちをひとりひとり血祭りにあげる。最後は松永弾正による東大寺大仏殿の焼き打ち。コンピュータグラフィックスのない時代の特殊撮影は見事である。
 主役の笛吹城太郎が真田広之、松永弾正が中尾彬、果心居士が成田三樹夫。右京太夫と篝火の二役が渡辺典子。山田風太郎のエログロも楽しい。
 この日の三本立て、あとの二本は藤竜也主演『任侠花一輪』と渥美清の『男はつらいよ寅次郎頑張れ』で、もちろん三本すべて鑑賞した。

伊賀忍法帖
1982
監督:斎藤光正
出演:真田広之、渡辺典子、千葉真一、成田三樹夫、中尾彬、美保純、風祭ゆき、松崎登、田中浩、佐藤蛾次郎、浜田晃

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