シネコラム

第612回 真田風雲録

飯島一次の『映画に溺れて』

第612回 真田風雲録

平成二年二月(1990)
国立 国立市立公民館地下ホール

 

 一九七〇年代の半ば、大学で演劇の勉強をしていた私は、数多くの戯曲を手あたり次第に読み漁っていた。当時、唐十郎や別役実やつかこうへいや井上ひさしら若い劇作家の作品が文庫本でたくさん出ていて、夢中になったものだ。
 福田善之の戯曲『真田風雲録』もそれらの中の一冊だった。講談の真田十勇士を題材にしながら、歌あり笑いあり政治風刺ありのコメディだが、実際の舞台は未見であったし、映画化されていることは知っていたが、それも観る機会はなかった。
 一九九〇年代に入って、国立市の公民館で名作映画の鑑賞会があることを知り、しかも無料、そこで『真田風雲録』が十六ミリフィルムで上映されたのだ。
 戦国時代、関ケ原の戦災孤児たちが結束し、十数年後、徳川政権に反発し、大坂で豊臣側について一旗揚げようとするが、武士でない庶民の参加は認められず、身分にかかわらず若いエネルギーを認める武将の真田幸村の配下となる。若者たちが大坂冬の陣と夏の陣で戦う姿は、一九四五年の終戦を経験した青少年たちが六〇年代の政治運動で戦う姿に重ね合わされているように思えた。
 忍者の猿飛佐助は福田善之版ではSF的超能力を持つはなれ猿の佐助として中村錦之助が演じている。霧隠れ才蔵はむささびのお霧という名の女性で佐助の恋人となり、演じるは渡辺美佐子。他にジェリー藤尾、常田富士男、米倉斉加年、大前均らが十勇士を演じ、真田幸村は千秋実、幸村側近の穴山小助は河原崎長一郎である。
 南蛮渡来のギターを弾いて歌いながら十勇士に加わる由利鎌之助がミッキー・カーチス、米倉斉加年演じる十勇士の名が根津甚八だが、後に唐十郎の状況劇場で名を売った根津甚八は、真田十勇士から芸名をつけたと思われる。
 徳川幕府と大坂城の豊臣勢力による政治家たちの汚いかけひきが、結局は幸村と十勇士たちを破滅に追い込む。まさに一九六〇年代の世相を戦国時代の終焉に重ねた風刺劇といえる。

真田風雲録
1963
監督:加藤泰
出演:中村錦之助、ジェリー藤尾、ミッキー・カーチス、渡辺美佐子、本間千代子、千秋実、河原崎長一郎、佐藤慶、田中邦衛、常田富士男、米倉斉加年、大前均

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