シネコラム

第606回 ターゲット

飯島一次の『映画に溺れて』

第606回 ターゲット

平成二十五年九月(2013)
新宿 シネマート新宿

 

 黒澤明監督『生きる』の英国版リメイク『生きる LIVING』に主演したビル・ナイはエドガー・ライトのコメディからシリアスな『ミナマタ』まで様々な作品で活躍する名脇役で、主演作はほとんどないのだが、一本だけ思い出した。
 見るからに地味な英国紳士のビル・ナイが、実は『生きる LIVING』以外に、やはりリメイク作品に主演していたのだ。タイトルは『ターゲット』、オリジナルは一九九〇年代のフランスコメディ『めぐり逢ったが運のつき』で、主役の殺し屋はジャン・ロシュフォールだった。なるほど、ビル・ナイはどこかロシュフォールに通じるところがある。
 英国映画『ターゲット』は二〇一〇年の作品だが、日本ではDVD発売のみで映画館での公開はなかった。このDVDを観たファンの要望が大きく、二〇一三年の九月七日に、夜一回のみの上映が新宿シネマートで行われたのだ。会場はほぼ満席状態。私は基本的には映画は映画館で観るものだと決めているので、こういう試み、大変うれしかった。
 主人公ヴィクターは由緒正しい殺し屋の家系に育ったクールな初老の紳士。美術品愛好家のギャングの依頼で女詐欺師ローズの命を狙う。ところが、間が悪くてなかなか殺せない。ようやく狙いを定めたとき、ギャングの子分が現れてローズを殺そうとするので、行きがかり上、子分を撃って女を助けてしまう。たまたまその場にいて、巻き込まれた青年トニーと三人でギャングから逃げるという展開。逃げ回る間にこの初老の殺し屋と美人詐欺師との間に恋が芽生える。犯罪ものとラブコメディを合わせたような楽しさ。
 主演ビル・ナイははまり役だが、他に女詐欺師ローズがエミリー・ブラント。青年トニーが『ハリー・ポッター』の親友ロンのルパート・グリント。ギャングのボスがかつての二枚目ルパート・エヴァレット。そしてライバルの殺し屋をBBC『シャーロック』のワトスン役マーティン・フリーマンが冷酷に演じている。客席が若い女性で満員だったのは、フリーマンのファンが多かったからだろう。そして、監督は私の好きな『隣のヒットマン』のジョナサン・リンである。

ターゲット/Wild Target
2010 イギリス/劇場未公開
監督:ジョナサン・リン
出演:ビル・ナイ、エミリー・ブラント、ルパート・グリント、アイリーン・アトキンス、マーティン・フリーマン、ジョージ・フィッシャー、ルパート・エヴァレット

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