シネコラム

第605回 バグズ・ライフ

飯島一次の『映画に溺れて』

第605回 バグズ・ライフ

平成十一年四月(1999)
新所沢 レッツシネグリーン

 

 黒澤明監督の偉大さを思う。こんなところにまで影響しているとは。
 そこは虫の世界である。アリの島では働き者のアリたちがせっせと食糧を収穫し、祭壇に積み上げている。毎年、狂暴なバッタの一群がやって来て、祭壇の食糧を奪っていくのだ。
 アリの島の変人発明家フリックは収穫装置を作るが、不注意でバッタへの貢物の大切な食糧をだいなしにしてしまい、バッタたちを怒らせる。
 バッタのリーダーのホッパーは秋が終わるまでにいつもの二倍の食料を用意しろ、でなければおまえたちを滅ぼすという。だが、すべてバッタに奪われたらアリたちが飢える。
 フリックはバッタたちと戦うための戦士を雇うことを提案する。邪魔者のバッタ軍団を追い払えるならばと、アリの王女ロッタ姫は議会でフリックの案を承認する。
 町に到着したフリックはノミの団長のサーカス団をクビになった芸人の虫たちを戦士と勘違いし、彼らをバッタと戦わせるためにアリの世界に招く。芸人たちもスカウトと勘違いして喜んでアリの島へ赴く。
 つまり『七人の侍』を虫の世界に置き換えているのだ。アリは農民、バッタは野武士、そして虫の芸人たち、テントウムシ、ナナフシ、カブトムシ、イモムシ、クモ、カマキリ、マイマイガ、ダンゴムシ兄弟、彼らは少々頼りないが侍である。
 アリの島で歓迎を受けた芸人虫たちは狂暴なバッタ軍団と戦うことを初めて知り、怖気づくが、フリックのアイディアでバッタを追い払う工夫をする。
 エンドロールのジャッキー・チェン風NG集は、このためにわざわざ作ったもので『モンスターズインク』や『トイストーリー』でも使われた。
 それにしても、『七人の侍』は西部劇『荒野の七人』になって『続・荒野の七人』からシリーズ化し、『宇宙の七人』や『ヘイトフルエイト』など様々なパロディも作られているが、やはり『バグズ・ライフ』は異色であり、このアニメーションの元ネタが黒澤明の時代劇だなんて、知らない人のほうが多いだろう。

バグズ・ライフ/A Bug’s Life
1998 アメリカ/公開1999
監督:ジョン・ラセター
アニメーション

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