シネコラム

第597回 PLAN75

飯島一次の『映画に溺れて』

第597回 PLAN75

令和五年五月(2023)
高田馬場 早稲田松竹

 

 人口増加と食糧危機から国家に代わって営利優先の企業が世界を支配するディストピア 映画『ソイレントグリーン』が公開されたのは一九七三年だったが、そこに描かれた悪夢の未来は二〇二二年だったのだ。死を望む貧しい老人たちが安楽死センターで生涯を終え 、その死を企業が有効利用するというおぞましい結末は忘れられない。そして、倍賞千恵子主演の『PLAN75』が公開されたのが、奇しくも二〇二二年のことである。しかも 未来SFではなく、映し出されるのはほぼ現代の日本。
 年寄りは社会のお荷物である。そんな思想から高齢者を襲撃して殺害する事件が相次ぎ 、政府は七十五歳以上の高齢者が自由に死を選べる法案「プラン75」を可決させる。
 今の世の中、財産もなく、家族もなく、仕事も収入もなくなった老人は少なくない。そんな高齢者に役所から一時金を支給し、短い一定期間が過ぎると所定の場所で死亡させ、簡単な集団葬儀と埋葬を行う。町にはにプラン75の明るいコマーシャルが溢れ、役所の窓口だけではなく、様々な公共の場にマイナンバーカード奨励を思わせるような仮設勧誘受付所が設けられ、職員が応対するのだ。
 主人公のミチは七十八歳、健康でまだ頭もすっきりしており、ホテルの客室清掃員の仕事をしている。同世代の同僚たちとも仲良く過ごす。ある日、同僚のひとりが職場で作業中に急死し、年寄りを働かせるなという投書がホテルに届いて、ミチたち高齢の清掃スタ ッフは解雇されてしまう。貯金もほとんどなく、収入の道を閉ざされ、職探しはままならず、家賃の安いアパートに引っ越そうにも、どこの不動産屋も受け付けてくれず、生活保護の対象にもならず、とうとうプラン75に足を向ける。寅さんの可憐な妹さくらだった 美人女優、八十過ぎて老女ミチをリアルに演じた倍賞千恵子に脱帽。
 無能な為政者が思いつきで推し進める制度は国民を苦しめる。今は若くとも、いずれみんな、長生きすれば高齢者になるのだ。七十五歳以上は現代の日本の制度下における後期高齢者である。悪法がさらに進めば、プラン〇〇という弱者抹殺も起こりえるだろう。

PLAN75
2022
監督:早川千絵
出演:倍賞千恵子、磯村勇斗、たかお鷹、河合優実、ステファニー・アリアン、大方斐紗子、 串田和美

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