シネコラム

第596回 必殺仕置人 いのちを売ってさらし首

飯島一次の『映画に溺れて』

第596回 必殺仕置人 いのちを売ってさらし首

令和五年七月(2023)
阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷

 

 池波正太郎原作『必殺仕掛人』シリーズがTV放映されたのが一九七二年九月から半年間であり、後番組として、同様の江戸の殺し屋集団を描いた『必殺仕置人』が一九七三年四月から半年放送され、今回、五十年ぶりにラピュタ阿佐ヶ谷の大画面に蘇った。
 金をもらって悪人退治を請け負う仕掛人も面白かったが、仕置人はさらに無頼な連中で悪人を簡単には殺さず、地獄の苦しみを味合わせてから始末する痛快さなのだ。
 第一話の『いのちを売ってさらし首』では、無頼長屋に住む骨接ぎ、早桶屋、女すり、瓦版屋の四人が助けた田舎娘から、無実の罪で獄門になった父親の話を聞き出し、これに町奉行所同心の中村主水が加わって、悪人退治の仕置人仲間を結成する。配役は山崎努の接骨師念仏の鉄、沖雅也の棺桶の錠、野川由美子の女すりおきん、津坂匡章の瓦版屋の半次、そして藤田まことの中村主水である。
 藤田まことはかつて『てなもんや三度笠』の大阪弁の渡世人で一世を風靡し、ちゃらちゃらしたコメディアンとして人気があったので、颯爽と登場した仕置人の中村主水には驚いた。八丁堀の組屋敷に妻女と姑と三人暮らし、養子であるため家では肩身が狭く、町奉行所ではうだつが上がらず、無頼長屋の連中からわずかな銭をたかる絵に描いたような下っ端役人だが、実は剣の名手で、強敵の悪人をばっさりと斬り殺す。『必殺仕置人』の配役筆頭は最初、念仏の鉄の山崎努だった。やがて藤田まことの中村主水のイメージが強烈すぎたのか、必殺シリーズといえば藤田まことが一番に浮かぶ。
 第一話では大滝秀治演じる盗賊の首領が菅貫太郎の北町奉行と裏で手を結び、自分とよく似た百姓を捕縛させて身代わりに獄門首にする。これを知った仕置人たちは悪人一味を簡単には殺さない。拉致した町奉行の背骨を骨接ぎの鉄が外し、身動きできない状態にして、さらしものにして、屈辱のうちに死に追いやるのである。必殺シリーズはその後も仕事人、助け人、からくり人など続いたが、悪人たちを奇抜なわざであっさり殺すより、苦痛と恥辱でのたうちまわらせる最初の仕置人が私は一番好きだった。

必殺仕置人 いのちを売ってさらし首
1973/TV放映1973
監督:貞永方久
出演:山崎努、沖雅也、野川由美子、白木万理、津坂匡章、高松英郎、菅井きん、大滝秀治、 今出川西紀、菅貫太郎、近藤宏

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