シネコラム

第588回 雲の上団五郎一座

飯島一次の『映画に溺れて』

第588回 雲の上団五郎一座

平成十四年十一月(2002)
池袋 新文芸坐

 

 若い頃からさんざん通った池袋の文芸坐が一九九七年の三月に老朽化のため閉館した。ここで最後に観たのはセクシー美女が暴れる『カサブランカ』のパロディSF『バーブワイヤー』だったと思う。その後、池袋にはまったく足が遠ざかり、飯田橋ギンレイホールや新橋文化の二本立てに通うことになる。ギンレイホールも新橋文化も今はもうない。
 文芸坐跡地に新しい新文芸坐が生まれ変わって開館したのが二〇〇〇年の年末だったが、なかなか行く機会がなくて、ようやく新文芸坐に行ったのは開館から約二年後、『雲の上団五郎一座』と『南の島に雪が降る』の二本立てを観るためだった。朝早く、映画館の周囲には長い行列。すごいと思ったら、一階のパチンコ店の開店目当ての客たちで、映画館はけっこう空いていた。
『雲の上団五郎一座』は元々はエノケンこと榎本健一の舞台劇で、旅回りのパッとしない一座の苦労と、その劇中劇という設定は、芸達者なコメディアンたちの腕の見せ所である。舞台版は私が子供の頃、年末などにTVで頻繁に中継されており、大爆笑だった。  私が『雲の上団五郎一座』の舞台を生で観たのは一九七五年の新春、大阪の梅田コマ劇場。主演はフランキー堺、他に益田喜頓、坂本九、大阪なので芦屋雁之助、小雁、白木みのる等が出ていた。
 池袋新文芸坐で観た映画版は、フランキー堺演じる芸術家気取りの酒井英吉がエノケンの団五郎が座長を務めるドサ回り劇団の構成演出を引き受けるというストーリーで、エノケン、フランキー、三木のり平、脱線トリオらが大活躍していた笑いの最盛期であり、フランキー堺の勧進帳、三木のり平と八波むと志の切られ与三など、楽しめる場面も多い。
 私が梅田コマ劇場で観た『雲の上団五郎一座』もフランキー堺が座長兼演出家の役で、『忠臣蔵』判官切腹の場では白塗りの益田喜頓が判官、芦屋雁之助が大星由良之助、『切られ与三』の場面では芦屋小雁の与三郎とフランキー堺の蝙蝠安のかけあいが大爆笑であったことが忘れられない。

雲の上団五郎一座
1962
監督:青柳信雄
出演:フランキー堺、水谷良重、榎本健一、森川信、佐山俊二、三木のり平、八波むと志、由利徹、南利明、花菱アチャコ、清川虹子、高島忠夫、筑波久子

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