シネコラム

第587回 九八とゲイブル

飯島一次の『映画に溺れて』

第587回 九八とゲイブル

平成二十二年五月(2010)
神保町 神保町シアター

 

 井上ひさしの小説『モッキンポット師の後始末』を読んだのは一九七〇年代の前半、私の大学入学の頃で、当時、石坂浩二主演のTVドラマとして放送されており、原作小説は読みながら声を出して笑ってしまうほどの面白さだった。井上ひさし本人をモデルにしたらしい主人公と、その二人の悪友の貧乏学生時代の悪戦苦闘。友人が草野大悟と山本圭で、彼らの失敗の後始末を毎回させられるお人好しのフランス人神父がなんと三谷昇だった。
 それからは木の実ナナ主演の舞台劇『天保十二年のシェイクスピア』を観劇したり、直木賞受賞の時代小説『手鎖心中』、てんぷくトリオのコントを集めた『コント集』など、書店に出るたびに買いに走り、著作はほとんど全部読んだのだ。
 短編集『喜劇役者たち』の中の一編『九八とゲイブル』は愛川欽也とタモリの主演で映画化されたが、ずっと見逃しており、公開より三十年以上経って、ようやく神保町シアターで鑑賞できた。
『九八とゲイブル』のタイトル、クーパーとゲイブルと読む。浅草のストリップ劇場に出演するお笑いコンビが芸里九八(ゲイリークーパー)と苦楽芸振(クラークゲイブル)というハリウッドスターをもじった芸名なのだ。
 落ち目の九八が旅先で奇妙な男と出会い、コンビを組むと大受け、それで古巣の浅草に戻ってストリップ劇場に出演するという話。売れない九八が愛川欽也、奇妙なゲイブルがちょうど売り出した頃のタモリ。異常なタモリのボケと凡庸な愛川のツッコミが活かされた見事なボケツッコミコンビで、いい味を出している。
 九八の恋人の浅草のカレー屋が佐藤オリエ。井上ひさしがモデルの劇場の裏方が秋野大作。支配人が南利明。ストリッパーが東てる美とあき竹城。風俗係の刑事が橋本功。劇場の台本作家が財津一郎。謎の観客が三木のり平。おでん屋が赤塚不二夫。最後には国際劇場のSKDの華やかな舞台に九八とゲイブルが紛れ込む。

九八とゲイブル
1978
監督:瀬川昌治
出演:愛川欽也、タモリ、佐藤オリエ、秋野大作、三木のり平、南利明、橋本功、財津一郎、東てる美、あき竹城

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