シネコラム

第586回 脇役物語

飯島一次の『映画に溺れて』

第586回 脇役物語

平成二十二年十一月(2010)
有楽町 ヒューマントラストシネマ有楽町

 

 有楽町駅前のイトシアビルにある映画館がシネカノンからヒューマントラストシネマに変わった頃に観たのが益岡徹主演の『脇役物語』だった。
 益岡徹といえば、仲代達矢主催の無名塾出身の名脇役である。思いつくところでは『落語娘』の古典派の名人。『三丁目の夕日』のストリップ劇場の支配人。『ぷりてぃうーまん』の市役所の職員。滑稽でありながら、リアルな役作り。『どら平太』が映画化される以前の岡本喜八監督のTV版『着ながし奉行』で主演の仲代にからむふたりの若侍が当時若手の役所広司と益岡徹だった。
 それはともかく、『脇役物語』は、おそらく益岡徹の初主演作ではなかろうか。
 主人公の松崎ヒロシは脇役専門のプロの俳優で離婚歴のある中年男。映画やTVの脇役をこなし、時にはコマーシャルにも登場。世間一般にはほとんど顔も名前も売れておらず、しょっちゅう店員や係員と間違われて腐っているが、キャリアは長く俳優仲間には知られた顔。
 この松崎ヒロシが演技力を認められ、ウディ・アレンの日本版リメイクでの映画主演の話が舞い込んで、有頂天になっている。そんな矢先、ちょっとした誤解から写真週刊誌に国会議員夫人の恋人としてスクープされ、議員の怒りと圧力で仕事を失う。
 彼に絡むのが、津川雅彦演じる父親の有名作家、永作博美演じる女優の卵。アメリカの往年のコメディを思わせるような軽快さで物語が進む。
 議員夫人が松坂慶子、ホームレスが柄本明、ヒロシのマネージャーが佐藤蛾次郎、永作博美の劇団仲間が前田愛、元彼が中村靖日、万引き男が仁科貴。
 脇役物語というだけあって、脇役俳優の面々、ちょっとした役でたくさん出てくるのも楽しい。

脇役物語
2010
監督:緒方篤
出演:益岡徹、永作博美、津川雅彦、松坂慶子、柄本明、前田愛、佐藤蛾次郎、柄本祐、イーデス・ハンソン、江口のりこ、中村靖日、松山愛里、神太郎、仁科貴

←飯島一次の『映画に溺れて』へもどる