シネコラム

第556回 八十日間世界一周

飯島一次の『映画に溺れて』

第556回 八十日間世界一周

昭和四十三年八月(1968)
大阪 上六 上六映劇

 子供の頃、映画館へは祖母か父に連れられて行っていたが、中学三年生になって、友人たちだけで『猿の惑星』を観た。それから二か月後、生まれて初めてたったひとりでどきどきしながら映画館へ入ったのが『猿の惑星』と同じ上六映劇、大阪では近鉄本町駅を上六という。そこの近鉄百貨店に隣接した映画館が上六映劇だった。
 映画は『八十日間世界一周』のリバイバル上映である。どうしても観たいというわけではなく、夏休みで、父から招待券を渡されたのだ。ジュール・ヴェルヌの原作は少年向きの本を読んで知っていた。
 一八七二年、ヴィクトリア朝のロンドンで、典型的な英国紳士のフォッグ氏が社交クラブの仲間と賭けをする。八十日で世界一周ができるかどうか。几帳面で時間に正確なフォッグだが、賭けに負けると全財産を失う。前日に雇った召使のパスパルトゥとともにロンドンからパリへ。そこから気球でマドリードまで。気球の場面で流れる曲はTVの旅行番組「兼高かおる世界の旅」で使われていたテーマ曲と同じだった。
 インドで助けるお姫様が若き日のシャーリー・マクレーン。日本の場面では鎌倉の大仏が出てきて、男はほとんどがチョンマゲだった。明治五年の日本にはチョンマゲはそんなにいないはず。アメリカの西部ではインディアンの襲撃があり、大西洋では乗っている蒸気船の石炭が不足して船を買い取り備品や木材を壊して燃料にする。観客はデヴィッド・ニーヴンのフォッグやカンティンフラスのパスパルトゥとともに十九世紀の地球を一周した。
 賭けの結果はわかっていても、はらはらする場面が続く。おしゃれで几帳面で気取った英国紳士のデヴィッド・ニーヴンに当時少年だった私は大いに憧れたが、その後の『ピンクの豹』のニーヴンはあまり好きになれなかった。大人になってから古書店で初公開時のハードカバーのパンフレットを購入したが、配役の凄さに驚くばかり。

 

八十日間世界一周/Around the World in 80 Days
1956 アメリカ/公開1957
監督:    マイケル・アンダーソン
出演:デヴィッド・ニーヴンカンティンフラスシャーリー・マクレーン、ロバート・ニュートンノエル・カワード、トレバー・ハワード、フェルナンデル、マルティーヌ・キャロル、シャルル・ボワイエロナルド・コールマンマレーネ・ディートリッヒジョージ・ラフトフランク・シナトラバスター・キートン

 

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