シネコラム

第550回 ベティ・ペイジ

飯島一次の『映画に溺れて』

第550回 ベティ・ペイジ

平成二十年四月(2008)
飯田橋 ギンレイホール

 マリリン・モンローはスターとして売り出す前、ヌードモデルをしており、映画『ノーマ・ジーンとマリリン』に、そのあたりのことが描かれている。
 一九五〇年代は、さほど性が開放的ではなく、そんな時代に水着モデル、下着モデル、果てはヌードや緊縛写真まで撮った実在の女性ベティ・ペイジが主人公となるのが、グレッチェン・モル主演の『ベティ・ペイジ』である。
 最初の場面、小さなアダルト向けの書店、そこにひとりの客がおどおどしながら入ってくる。他の客も男ばかり。水着や下着の雑誌をちらちら眺めているのを横目にして、男は恥ずかしそうに気後れしながら、レジの店員にささやく。
「あのー、もっと変わったの、ないかな」
「なんですか」とけげんそうな店員。
「たとえば、編み上げタイツでハイヒールのやつとか」
 心得て、そっと引き出しから出す店員。
「わあ、すごい。こんなのもっとある」
「ええ、倉庫にたくさんありますよ」
 少女時代のベティ。彼女が結婚に失敗し、都会に出て、女優を目指しながら、モデルになり、水着からどんどんエスカレートしていく半生。まるでドキュメンタリーのように当時の性風俗の再現がよくできている。ベティはモンローのような女優にはなれなかったが、ピンナップの女王として売れ、ある日、ぷっつりと姿を消す。
 芸能界に憧れて、都会に出てきて、性風俗業界に入っていく女性は、昔も今もたくさんいたのだろう。中には娼婦になったり、客に惨殺されたり。そのあたりの暗部を描いているのがブライアン・デパルマ監督の『ブラックダリア』だった。実在のベティ・ペイジはエロ映画にも出演し、二〇〇八年に八十五歳で亡くなったとのこと。

ベティ・ペイジ/The Notorious Bettie Page
2006 アメリカ/公開2007
監督:メアリー・ハロン
出演:グレッチェン・モル、クリス・バウアー、ジャレット・ハリス、デヴィッド・ストラザーンリリ・テイラー

 

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