シネコラム

第549回 クイズ・ショウ

飯島一次の『映画に溺れて』

第549回 クイズ・ショウ

平成七年四月(1995)
日比谷 みゆき座

 

 私が子供の頃、家にはTVが一台しかなく、夕食時などは家族そろって、つけっぱなしのTV番組を見ていた。その頃、多かったのが各種のクイズ番組だった。偉そうな司会者が解答者の席に並んだ著名な芸能人や文化人たちの珍解答をこきおろす。
 あまり賢そうにも見えない芸人が難問に次々正解を出すと、わが茶の間では母がはしたない喝采を下品に叫ぶ。私はなによりもそれが嫌でたまらなかった。母のようなTVを盲信する愚劣な視聴者が増えると視聴率は上がる。私は子供ながら、そのクイズ番組に胡散臭さを感じていたのだ。
 そんな一九五〇年代のアメリカのTVクイズ番組の内幕を描いたのが、ロバート・レッドフォード監督の『クイズ・ショウ』である。
 クイズ番組で勝ち続けるユダヤ系の庶民ハービーは、ディレクターに呼ばれ、チャンピオンとしてマンネリになったから、わざと答えを間違えるよう要請され、番組を下ろされる。新チャンピオンに選ばれたのが名門の大学講師チャールズ。美男のチャールズには非常に難しいクイズの答えが予め教えられており、次々にすらすら答えて、スターとなり、雑誌の表紙を飾り、大学でも講師から助教授に推薦される。
 ゴミのように番組から捨てられ、不満を持ったハービーはユダヤ系の若手弁護士グッドウィンに内幕を暴露する。
 グッドウィンは番組の歴代のチャンピオンに会い、彼らの中に答えを教えられた証拠を持つ男を見つけ、徐々にチャールズや番組プロデューサーを追い詰めて行く。チャールズにも良心があり、委員会で番組が仕組まれたことを告白する。その潔さに拍手が起こるが、彼は番組を下ろされ、大学からも追放される運命となる。
 が、TVそのものは本質が作りものの嘘なのだということになり、スポンサーもTV局も追及されることなく、そのTVの欺瞞と嘘臭さが現代の日本でもまだ続いているのだ。

 

クイズ・ショウ/Quiz Show
1994 アメリカ/公開1995
監督:ロバート・レッドフォード
出演:ジョン・タトゥーロレイフ・ファインズ、ロブ・モロー、ポール・スコフィールド、デヴィッド・ペイマー、ハンク・アザリア、クリストファー・マクドナルド、エリザベス・ウィルソン、ミラ・ソルヴィノ、ヨハン・カルロ、マーティン・スコセッシ

 

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