シネコラム

第526回 シャーロック・ホームズ 闇夜の恐怖

第526回 シャーロック・ホームズ 闇夜の恐怖

平成二十六年一月(2014)
渋谷 シネマヴェーラ

 

 第二次大戦が終了しても、ベイジル・ラスボーンはしばらくホームズを演じていた。『闇夜の恐怖』は戦後に作られた作品で、走行中の列車内で起きた事件をホームズが解決する。
 著名な巨大ダイヤモンドの所有者である貴婦人が、ダイヤとともに夜行列車でロンドンからエディンバラまで移動する。その子息の依頼でホームズとワトスンは護衛のため同乗する。レストレード警部もまた偶然を装って乗り合わせている。
 貴婦人の個室で子息が何者かに殺害され、ダイヤが奪われる。移動中の列車内での殺人と盗難。犯人は一等車に乗り合わせた人物に限られる。特注の棺とともにエディンバラに向かう若い女性、たまたま発車直前にワトスンと乗ってきた元戦友の大佐、気難しい数学教授、一等車と隣合わせの貨物車の職員。そもそもダイヤの所有者である貴婦人も、みんな怪しいと思えば怪しいのだが、さて、犯人はだれか。
 ワトスン役で毎回出演しているのがナイジェル・ブルース。メキシコ出身の英国人で、ラスボーンのホームズ映画十四本すべてに出演し、ワトスンとしては少々鈍感でしばしば失敗する。『シークレット・ウェポン』では科学者を見張るようにホームズに頼まれ、請け合いながらも居眠りして科学者が抜け出すのに気が付かないなど信じられないヘマをする。とんちんかんな出まかせを口にしホームズを苦笑させるし、著名な探偵の相棒の立場を主張し、けっこう態度が大きい。コナン・ドイル原作をはるかに誇張したでっぷり太めの愚直な好人物、道化役ワトスンの典型である。
 果たして、このワトスンに克明な事件記録が執筆できるだろうか。このシリーズでデニス・ホーイ演じるレストレード警部が、しばしばワトスンよりも優秀に見えてしまうぐらいだから。

シャーロック・ホームズ 闇夜の恐怖/Terror by Night
1946 アメリカ/未公開
監督:ロイ・ウィリアム・ニール
出演:ベイジル・ラスボーン、ナイジェル・ブルース、アラン・モーブレイ、デニス・ホーイ、メアリー・フォーブス、ビリー・ビーヴァン