第472回 第三の男
見事な映画であり、あまりにも有名な作品である。
モノクロ映像の美しさ、巧みなストーリー展開、絵になるスターたち。そして、なによりも全編に流れるチターの名曲。この映画を観たことがない人も、この曲は耳にしているはずだ。
第二次大戦の終戦直後、オーストリアは英米仏ソの四か国により各地域を統治されていた。ウィーンを訪れたアメリカ人、あまり売れていないウエスタン小説の作家ホリー・マーチンス。この町で商売している学生時代の親友ハリー・ライムに仕事の話があると言われ、はるばるやって来たのだ。が、その日がハリーの葬式だった。前日に自動車事故で命を落としたという。
墓地へ駆けつけると、胡散臭い男たちとひとりの美女が埋葬に立ち会っている。美女はハリーの愛人だった女優のアンナ。男のひとりは英軍のキャロウェイ少佐で、死んだハリーが闇で悪事を働いていたことを告げ、すぐに帰国するよう助言する。
ハリーの事故死に不審を抱いたホリーは帰国を延期し、真相を探るため、アンナに近づく。
あまりにも有名な作品なので、ストーリーは知れ渡っている。主演はアメリカ人作家役のジョセフ・コットン。準主役ともいうべきオーソン・ウェルズが全然出てこない。ということは。
あらすじも結末も知らず、白紙の状態で観れば、もっと感激したに違いない。この映画を絶賛する人たちは、おそらく公開当時に観て謎解きの醍醐味を楽しんだのだろう。
有名すぎるミステリーは、知られすぎていることが唯一の欠点でもある。もちろん、この『第三の男』はそれを差し引きしても素晴らしいのだが。
ウエスタン小説の作家がいきなり文学論の講演を頼まれ、しどろもどろで語る場面、途中で会場からが次々と退出する受講者、本筋とは関係ないが不思議と印象に残る。
第三の男/The Third Man
1949 イギリス/公開1952
監督:キャロル・リード
出演:ジョゼフ・コットン、アリダ・ヴァリ、オーソン・ウェルズ、トレヴァー・ハワード、バーナード・リー、パウル・ヘルビガー、エルンスト・ドイッチュ、ジークフリート・ブロイアー、エリッヒ・ポント