シネコラム

第471回 偶然と想像

第471回 偶然と想像

令和三年十月(2021)
渋谷 映画美学校試写室

 

 洒落た短編小説を読むような面白さ。三つの短編によるオムニバスである。こんな偶然ありえない、と思うようなことがごく自然に納得できる形で起きてしまうのが映画の魔法なのだ。それは完成度の高い脚本、俳優の力量、緻密な演出によって成立する。
第一話『魔法(よりもっと不確か)』タクシーの中でのモデルとメイク係の会話。メイク係が最近知り合った男性との素敵な関係についてモデルに語る。二十代後半で親友同士のなんでも打ち明ける関係。
 その後、モデルはタクシーで引き返し、さるオフィスに入ると、そこにイケメン男がいて、これがメイク係の出遇った素敵な男性。イケメン男はモデルに捨てられ、新しい女性と恋に落ちた。それがメイク係だとわかる。ふたりの葛藤。
第二話『扉は開けたままで』三十過ぎて大学に学生として通う主婦と就職が決まっていながら教授から単位を貰えず留年となった学生との会話。ふたりは不倫の関係。
 この女性が男子学生にそそのかされて教授を色仕掛けで罠にかけようとする。教授は彼女に性的興味をまったく示さず、文学論を語る。教授の真摯さに彼女は感銘するのだが。
第三話『もう一度』二十数年ぶりで女子高の同窓会で故郷に戻った女性。が、意中の旧友には会えず、翌日駅に向かうと、エレベーターでばったり彼女に出会う。相手の女性も喜び自宅に招くが、なぜか会話がかみ合わない。女子高時代に女同士で愛し合い、別れたことを後悔し、それを告白しようとするのだが。
 各作品のどのシーンも、ほとんどがふたりの人物の会話で成り立っており、後味はほろ苦く、珠玉の小品佳作といおうか。女優陣が全員、絵になる美女というのも見応えあり。いつもは悪役やチンピラやくざの役が多い渋川清彦の大学教授が印象に残る。

 

偶然と想像
2021
監督:濱口竜介
出演:魔法(よりもっと不確か) /古川琴音、中島歩、玄理
扉は開けたままで/渋川清彦、森郁月、甲斐翔真
もう一度/占部房子、河井青葉