シネコラム

第470回 浜の朝日の嘘つきどもと

第470回 浜の朝日の嘘つきどもと

令和三年十二月(2021)
飯田橋 ギンレイホール

 

 私は映画が好きであり、映画は映画館で観たい。映画館が大好きなのだ。だが、近頃は家庭用の大型TVが普及し、DVDやネット配信も充実し、映画館へ全然行かない映画ファンも増えているようだ。となると、当然ながら映画館の経営が厳しくなる。大手シネコンでも作品によっては客席がまばらだが、個人経営の映画館なら死活問題であろう。
 主人公の名前は浜野あさひ、福島県の高校時代にいじめにあって、自殺しかけたのを助けてくれた茉莉子先生が生粋の映画マニア。あと百年後にはあんたは死んでるのよ。今、急いで死ななくても。そう言われて相談室でいっしょに観たDVDの映画が若尾文子主演『青空娘』だった。あさひは救われ、東京に引っ越すが、夏休みに家出して、先生のアパートへ転がり込み、その影響で映画マニアになり、大学卒業後は映画配給の仕事に就く。
 福島の二本立て映画館朝日座。大正時代から百年続く劇場で、大震災でもなんとか持ちこたえたが、コロナが追い打ちとなり、赤字続きでいよいよ閉館することになった。館主の森田がドラム缶でフィルムを燃やしていると、そこへ横から駆けつけて水をかける若い女。名を聞かれてとっさに茂木莉子(もぎりこ)と名乗る。映画館のモギリになるために生まれてきたような名前だが、これが浜野あさひ。恩師の茉莉子先生に頼まれ、朝日座を立て直すためにやって来たのだ。
 だが、すでに不動産屋を通して売買契約も済み、跡地にスーパー銭湯ができる予定で解体の日取りも決まっている。諦めきった森田の尻を叩きながら、町の人たちをも巻き込んで茂木莉子の大奮戦となるのだが。
 現実の大震災やコロナを背景にしながらも、明るく前向きなコメディタッチ。家出したあさひが茉莉子先生のアパートで繰り返し観る映画が『喜劇女の泣きどころ』であったり、映画ネタが満載で、映画好き、とくに映画館好きにはうれしい。
 南相馬市に実在する朝日座を舞台に福島中央テレビが製作したTVドラマがあり、その前日談として作られた映画である。が、ドラマ版を知らなくても充分に楽しめた。

 

浜の朝日の嘘つきどもと
2021
監督:タナダユキ
出演:高畑充希柳家喬太郎大久保佳代子甲本雅裕、佐野弘樹、竹原ピストル光石研吉行和子