第452回 グッドナイト&グッドラック
平成十八年十月(2006)
新橋 新橋文化
一九五〇年代、ジョセフ・マッカーシー上院議員による赤狩りは最初、多くのアメリカ国民の支持を得る。背景には冷戦状態にあるソビエト連邦の脅威があった。マッカーシーによる共産主義者の告発は軍隊、メディア、映画界に及び、共産主義者やそのシンパと疑わしい者たちを次々に摘発した。マッカーシーは過激さを増し、赤狩りに異を唱える者は根拠がなくても共産主義者と見なし、国家の敵として攻撃した。狂信的な反共の名の下に自由と民主主義が弾圧され統制されようとしている。
戦後、報道の中心はラジオからTVに移っていた。マッカーシーを批判すれば潰される。マスコミは権力に逆らわない。TVは楽しい娯楽番組を作って視聴者とスポンサーに喜んでもらえば、それでいい。
そんな風潮の中で、赤狩りにまっこうから反撃したのが、CBSの人気キャスター、エドワード・R・マローである。彼は共産主義と無縁な中立であり、むしろ保守的だったが、疑わしいというだけで人を失業や自殺に追い込む赤狩り、反対者をすべて共産主義に仕立てるマッカーシーに黙っていられなくなったのだ。
彼と番組スタッフはいかに権力者マッカーシーと戦うのか。
当時新進のメディアであったTVを最大限に利用し、報道番組でマッカーシーの不正を暴くというのがTVマンたちの戦法である。そしてマッカーシーは見事に失脚する。
どんな理想も良識を失うと、恐ろしい世の中を生みかねない。そういう危険はいつの時代にも、どこの国にもある。歪んだ正義が暴走すると、反対するのは難しい。
そして逆に言えば、マッカーシーを倒すほどの力を持つマスコミは、大衆を悪い方向にも操作できるという危険をも孕んでいる。
マローを演じたデヴィッド・ストラザーンをはじめ、ジョージ・クルーニー、ロバート・ダウニーJr、フランク・ランジェラ、ジェフ・ダニエルズなど個性的なベテランが当時のTVマンたちにふんし、クルーニーが監督も兼ねる。
グッドナイト&グッドラック/Good Night, and Good Luck
2005 アメリカ/公開2006
監督:ジョージ・クルーニー
出演:デヴィッド・ストラザーン、ジョージ・クルーニー、ロバート・ダウニー・Jr、パトリシア・クラークソン、ジェフ・ダニエルズ、フランク・ランジェラ