シネコラム

第451回 偽りの隣人 ある諜報員の告白

第451回 偽りの隣人 ある諜報員の告白

令和三年八月(2021)

新橋 TCC試写室

 

 これはふたりの男の友情の物語である。

 ユ・デグォンは正義感の強い愛国者であり、国家安全政策部の諜報員として活動している。

 イ・ウィシクは現政権に批判的な民主化運動の指導者であり、次期大統領選挙への出馬を目指している。

 時代は一九八五年、韓国は長年にわたる軍事独裁政権下であった。アメリカから帰国したばかりのウィシクは国家安全政策部によって空港で拉致され、その後、自宅に家族とともに軟禁される。家の入口や周囲に警官隊が配置され、家政婦以外は外出禁止となる。

 ウィシクの隣の民家には国家安全政策部の諜報員二名がすでに潜伏して監視と盗聴を行っていた。国家安全政策部のトップであるキム室長はウィシクを共産主義者に仕立てるよう、新たにデグォンをチーム長に任命する。デグォンは潜入先の民家にイ家の配置を再現し、各部屋の様子を録音盗聴しながら、徹底的な調査を開始する。

 ある日、屋上で煙草を吸っているデグォンに隣家からウィシクが親し気に声を掛けてくる。あわてて引っ込むデグォンであったが、今度はウィシクの娘が庭で穫れた野菜を持って挨拶に来る。

 不当な迫害にもめげず、家族を愛するウィシク、仲のいい一家。隣人として自然な交流を装ううち、いつしか、デグォンはウィシクの人柄に惹かれていくのだった。

 事態が進展せず、業を煮やしたキム室長は次々に卑劣な計略でウィシクを追い詰め、葬り去ろうとする。任務に躊躇するデグォンに、その正体を薄々察したウィシクは言う。私には私の仕事があり、君には君の仕事がある。いつかいっしょに食事しよう。

 韓国の現代史を背景に、社会派でありながらユーモアとサスペンスを盛り込んだ娯楽作である。

 

偽りの隣人 ある諜報員の告白/이웃사촌

2020 韓国/公開2021

監督:イ・ファンギョン

出演:チョン・ウ、オ・ダルス、キム・ヒウォン、キム・ビョンチョル、イ・ユビ、チョ・ヒョンチョル、チ・スンヒョン、キム・ソンギョン、ヨム・ヘラン