第445回 プロミシング・ヤング・ウーマン
令和三年七月(2021)
立川 キノシネマ立川
凄惨な復讐劇でありながら、どことなくユーモラスで、方向が変わればラブコメディになっていたかもしれないと思わせる奇妙な味わいである。
カサンドラ・トーマス、通称キャシーは両親と同居、昼間は知り合いのカフェで働き、夜は酒場でべろべろに酔いつぶれている。下心のある男が声をかけ、自宅に連れ込み、事に及ぼうとすると、「あんた、なにする気?」突然素面に戻って男をあわてさせる。酔ったふりをして男を愚弄する危険なゲームを彼女はなぜ続けているのか。
十年前、キャシーは優秀な医学生で、幼馴染で親友のニーナも同じ医学部に通っていた。ある夜、学生たちのパーティで酔ったニーナがみんなの見ている前で男子学生に強姦される事件が起きる。大学側は将来有望な男子学生に瑕をつけるにしのびずと、ニーナの被害届を無視し、告訴も却下される。ニーナは自殺し、キャシーは大学を中退した。
そんな彼女の前に当時の学友ライアンが現れる。たまたまカフェに寄っただけだが、十年ぶりに懐かしい会話を交わし、その後、デートに誘われる。当時の学友の近況が話題となり、ニーナを強姦し死に追いやった男子学生は、今では医者として成功し、近々金持ちの美人と結婚するという。キャシーの中で怒りが煮えたぎる。
だが、ライアンと会うのは楽しい。小児科医となったライアンは他の男たちと違い、誠実で優しくユーモアのセンスがあり、キャシーはいつしか彼と愛し合い、家に招いて両親に紹介するまでになる。
過去への復讐を忘れ、ライアンとの今のしあわせを選ぶべきか。揺れ動くキャシーにさらに新たな真実が突きつけられる。
キャシーの本名がカサンドラ。この名前には意味がある。トロイの王女カサンドラはアポロン神に愛され、予言の能力を与えられる。それゆえ、アポロンの心変わりが見えてしまい愛を拒絶する。怒ったアポロンは彼女の予言に条件を加える。予言は必ず当たるが、だれひとりそれを信じる者はいないと。
プロミシング・ヤング・ウーマン/Promising Young Woman
2020 アメリカ/公開2021
監督:エメラルド・フェネル
出演:キャリー・マリガン、ボー・バーナム、アリソン・ブリー、クランシー・ブラウン、ジェニファー・クーリッジ、ラバーン・コックス、コニー・ブリットン