生涯現役! 人生二刀流!/赤神諒
洋の東西を問わず、疫病や戦争、飢饉はたびたび起こり、人口を変動させてきましたが、日本は今、超高齢化・超少子化による<人口急減>に直面しています。 2025年からは「高齢者の急増」ではなく、「現役世代人口の急減段階」に入り、日本人の「総仕事時間」も、半分近くまで急減していきます。 占いや経済予測と違って、人口推計は怖いほどの正確性で知られています。 日本はまさにこれから、世界に先駆けて<人口崩壊>とまで表現される歴史事象を体験することになります……。
と、政府広報のように始めてみました。 もう、読むのをやめてしまった方も、おられるかも知れません。(嗚呼) 毎年、何度も日本各地にやってくる天才 ――ならいいのですが、天災。 さらには、日本人の注意力が散漫になってきたのか、 ここ十年ほど目に余るようになってきた仁斎 ――は偉い人ですが、人災。(もう、いいって) 追い討ちをかけるように、今般のウイルス禍。 内憂外患に絶望したくなりますが、かの朝倉宗滴は 「どんな戦いでも、音を上げてはならん」 という言葉を残しています。 ――本当はもっとかっこよく言っていますが。 そこで二つ、解決策のご提案を。
◆まずは、生涯現役! ぱっと見は、ものすごく前向きな表現ですが、 言っていることは恐ろしい。要するに、 <死ぬまで働け>ということ。 全身全霊でAIにも頑張ってもらいますが。
政府はひとまず「20~64歳」を「現役世代」とカウントしていますが、 <生涯現役作戦>で、大人はすべて現役世代に早変わり。 「総仕事時間」の減少も、緩やかになります。 企業は求人難に苦しんでいるので、仕事はあるはず。 男女が力を合わせてこれをやれば、日本はきっと軟着陸できます。 「男女共同参画」ではなくて、「男女全力参画」に変えませんか。 ちなみに私はこっそり気功や絵を習っているのですが、 (そんな時間あるなら、書けよ、締め切り守れよ) 先生は推定年齢70代のとても素敵な女性です。 中学生でデビューした鈴木るりかさん、 100歳の詩人柴田トヨさん。 大和撫子は単純にすごい。
2020年も暗い報道ばかりでしたね。 その中で、はやぶさ2以外にも、「100歳以上の高齢者が8万人を超え、全国の市区長で最高齢85歳の東京都・北区長が区内の100歳の男性をお祝いした」というニュースに、元気をいただきました。 矍鑠とされた男性は区民センターで、堂々と立って、お祝いを受け取られていました。終戦を知らずにソ連と戦い続け、4年間のシベリア抑留に耐え抜かれた壮絶なご経験もお持ちの方でした。大先輩に対し、心よりの敬意を表します。
ところで長宗我部元親は、四国における一大決戦<中富川の合戦>に臨み、15歳から60歳までの全男子に出陣を命じて、勝利しました。 平均寿命を考えれば、当時の60歳は、今なら80歳以上の感覚でしょうか。 立花道雪は下半身不随ながら73歳で出陣し、陣没しました。 朝倉宗滴も79歳まで生涯現役で戦をやりました。 大島光義は93歳で関ヶ原に出たとか。
仕事と言っても、彼らの場合、戦ですよ。つまり、命のやりとり。 戦に比べれば、私たちはやりやすい仕事をしているはず。 好きな仕事を、 例えば作家、ほら、歴史小説家でもいいのです。 志望者が増えれば、歴史小説を読む人が増えます。 読者が増えれば、出版不況がいよいよ底を打ち、活況を呈し、 ついには、赤神諒の「隠れた名作」群が日の目を浴び……。
◆もう一つの解決策は、人生二刀流! 皆が二つずつ、仕事をやる。 日本人の仕事時間は単純に倍増しないにせよ、増えます。 生産年齢人口の減少も、実質的には緩和されるはず。
二刀流は、昔からあります。 加藤清正や藤堂高虎は戦だけでなく、築城の名手でしたね。 AIの技術開発が急速に進み、シンギュラリティの到来も語られる激変の時代。 いつまでも今の職業があるとは限りません。 仕事をもう一つ身につけておくほうが安全です。 例えば、歴史小説家とか。(またかよ) そうすれば、赤神諒の「隠れた名作」群が……
*** 筆者プロフィール:赤神諒(あかがみ りょう)
1972年京都生まれ。2017年第9回日経小説大賞を受賞しデビュー。近著に『戦神』(角川春樹事務所)、『妙麟』(光文社)、『計策師』(朝日新聞出版社)、『空貝』(講談社)『立花三将伝』(講談社)など。日経新聞・朝刊に『太陽の門』、小説すばるに『はぐれ鴉』、小説現代に『梟の眼』をそれぞれ連載。
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