日本に於ける疫病の歴史とコロナ禍の現在/渡邉浩一郎
2020年1月に中国武漢で発生したコロナウイルスは当初、武漢周辺のみの局地的な流行で終わると思われていたが、数か月の内に瞬く間に世界中を席捲し、我々人類が築け上げてきた生活様式を悉く覆すような事態となった。過去に人類はペスト、コレラ、スペイン風邪等の疫病により数百万人を超す死者を出し、正に存亡の危機に立たされたが辛うじて乗り越え現在に至っている。思うに人類の歴史は人間同士の戦いの歴史であると同時に疫病との戦いの歴史でもあったと言えるだろう。 日本も歴史上に於いて度々疫病の流行に見舞われている。二つ例を挙げると、一つは奈良時代に当たる六世紀頃仏教が大陸から伝来した時、共に渡ってきた僧侶達によって疱瘡(天然痘)が持ち込まれて各地で大流行して猛威を奮った。これが後に蘇我・物部の崇仏論争の発端となってゆく。こののち蘇我と物部は宗教戦争とも言える丁未の乱において蘇我が物部を滅ぼした後に仏教が世に広まっていったのは周知のことであるが、この時代に推古天皇の摂政として辣腕を奮った聖徳太子も疱瘡で亡くなっている。この時代に疫病に掛かるということは即ち死に至るのと同じことだったので殊更に恐れられただろう。日本に広めるために伝来した仏教と一緒に疫病までもが広がってしまったのは何とも皮肉なことである。 二つめは江戸時代末期、つまり幕末であるが、この時にはコレラ(日本ではコロリ)が大流行し江戸だけで実に10万人以上もの人間が亡くなっている。浮世絵で有名な歌川広重もこの時にコロリに掛かり亡くなった。今のコロナの死亡者と比べて戦慄を覚える程の死者数だが、当時の医療技術の水準を考えればやむを得ないだろう。そしてこの時代に現在コロナ除けのシンボルとして有名になったアマビエが瓦版に登場している。 何か事あるときに何者かに縋りたいと思うのはいつの時代も同じである。そして現在、未だに治療薬はおろか予防薬すら開発されていない状況で再びコロナウィルスは勢いを取り戻しつつあり、飲食業、観光業などほぼ全ての業種が打撃を受けている。今年開催予定だった東京オリンピックは延期となり、来年の開催も危ぶまれている。今年の正月にこんな事態に陥るとは筆者も含め誰も予想出来なかったに違いない。むしろ今年はオリンピック効果で好景気に沸くと思っていた人が大半だろう。この様に書いていると何やら気分が下向きになりそうだが、筆者は悪いことばかりではないと思っている。今回のことでリモートワークという会社に行かずに、在宅しながら仕事が出来るということが証明された。これは子供を施設などに預けられない母親などにとっては朗報だと思う。いつの時代もそうだが人間は何かしらの外圧(今回は外国からのウィルス)があるとそれに対して解決策を見出し、時には順応しながら対応していくものである。今回のコロナウィルスが収束した時に経験したことを糧にして人類が発展することを筆者は願って止まない。
渡邉浩一郎
日本歴史時代作家協会会員
日本トレジャーハンティングクラブ会員
静岡県下田市出身
歴史関係のコミュニティやホームページにて歴史関係や、イベントのレポート記事などを執筆。歴史小説も書いており「継続は力なり」をモットーに日々頑張っています。
書くこと以外ではライフワークとして埋蔵金探しをしており調査及び探索をしています。現在、実地で探索しているのは武田信玄の埋蔵金で場所は秘密ですが、有望と思われる場所の深山幽谷を分け入り探索しています。こちらも同じく「継続は力なり」で発見を目指して頑張っています。
リレーエッセイ