リレーエッセイ

リレーエッセイ第12回 渡邉浩一郎

日本に於ける疫病の歴史とコロナ禍の現在/渡邉浩一郎

 

 2020年1月に中国武漢で発生したコロナウイルスは当初、武漢周辺のみの局地的な流行で終わると思われていたが、数か月の内に瞬く間に世界中を席捲し、我々人類が築け上げてきた生活様式を悉く覆すような事態となった。過去に人類はペスト、コレラ、スペイン風邪等の疫病により数百万人を超す死者を出し、正に存亡の危機に立たされたが辛うじて乗り越え現在に至っている。思うに人類の歴史は人間同士の戦いの歴史であると同時に疫病との戦いの歴史でもあったと言えるだろう。  日本も歴史上に於いて度々疫病の流行に見舞われている。二つ例を挙げると、一つは奈良時代に当たる六世紀頃仏教が大陸から伝来した時、共に渡ってきた僧侶達によって疱瘡(天然痘)が持ち込まれて各地で大流行して猛威を奮った。これが後に蘇我・物部の崇仏論争の発端となってゆく。こののち蘇我と物部は宗教戦争とも言える丁未の乱において蘇我が物部を滅ぼした後に仏教が世に広まっていったのは周知のことであるが、この時代に推古天皇の摂政として辣腕を奮った聖徳太子も疱瘡で亡くなっている。この時代に疫病に掛かるということは即ち死に至るのと同じことだったので殊更に恐れられただろう。日本に広めるために伝来した仏教と一緒に疫病までもが広がってしまったのは何とも皮肉なことである。  二つめは江戸時代末期、つまり幕末であるが、この時にはコレラ(日本ではコロリ)が大流行し江戸だけで実に10万人以上もの人間が亡くなっている。浮世絵で有名な歌川広重もこの時にコロリに掛かり亡くなった。今のコロナの死亡者と比べて戦慄を覚える程の死者数だが、当時の医療技術の水準を考えればやむを得ないだろう。そしてこの時代に現在コロナ除けのシンボルとして有名になったアマビエが瓦版に登場している。  何か事あるときに何者かに縋りたいと思うのはいつの時代も同じである。そして現在、未だに治療薬はおろか予防薬すら開発されていない状況で再びコロナウィルスは勢いを取り戻しつつあり、飲食業、観光業などほぼ全ての業種が打撃を受けている。今年開催予定だった東京オリンピックは延期となり、来年の開催も危ぶまれている。今年の正月にこんな事態に陥るとは筆者も含め誰も予想出来なかったに違いない。むしろ今年はオリンピック効果で好景気に沸くと思っていた人が大半だろう。この様に書いていると何やら気分が下向きになりそうだが、筆者は悪いことばかりではないと思っている。今回のことでリモートワークという会社に行かずに、在宅しながら仕事が出来るということが証明された。これは子供を施設などに預けられない母親などにとっては朗報だと思う。いつの時代もそうだが人間は何かしらの外圧(今回は外国からのウィルス)があるとそれに対して解決策を見出し、時には順応しながら対応していくものである。今回のコロナウィルスが収束した時に経験したことを糧にして人類が発展することを筆者は願って止まない。

 

 

 

渡邉浩一郎

日本歴史時代作家協会会員

日本トレジャーハンティングクラブ会員

静岡県下田市出身

歴史関係のコミュニティやホームページにて歴史関係や、イベントのレポート記事などを執筆。歴史小説も書いており「継続は力なり」をモットーに日々頑張っています。

書くこと以外ではライフワークとして埋蔵金探しをしており調査及び探索をしています。現在、実地で探索しているのは武田信玄の埋蔵金で場所は秘密ですが、有望と思われる場所の深山幽谷を分け入り探索しています。こちらも同じく「継続は力なり」で発見を目指して頑張っています。

 

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リレーエッセイ第11回 宇田川森和

奇遇の聖人/宇田川森和

 

 聖徳太子の廟から北に直線に並ぶお寺がある。  これを「上乃太子」「中乃太子」「下乃太子」と呼ぶ。  呼び方はともかく、方角的には、真逆の配置になる。 「上乃太子」が太子の廟がある、  ここでの埋葬も不思議な偶然が重なった。  まず、太子の母穴穂部皇女は、馬子の娘であり、妻子として太子一族に迎えいれられたなら、太子死後、廟のなかに埋葬されたのは当然だが、古代の形式では前例のない形式であった。  これは、後ろ盾にあった蘇我馬子の権威だったかもしれないし、太子自身のオーラがあったからともいえる。 少し脇道にそれるが、この磯長陵には、621年に亡くなった母の穴穂部間人皇女と、偶然翌年には太子の妃膳部菩岐々美郎女の三体が埋葬されており、古代の埋葬式としてはじつに珍しい形式で、「三骨一廊」といわれるものだ。  俗にいえば、太子は女性にモテたのかもしれぬ。  じつは、磯長墓の南側には、西方院という、日本最古の尼寺がある。 祀られているのは、善信(月益・馬子娘)秘蔵(月益・小野妹子娘)そして、恵善(玉照・守屋娘)とされるが、この陣容には少し納得しかねる。敵対する馬子と守屋の娘というのはできすぎ、と思われる。  724年聖武天皇は、東院と西院を創建し、寄進した。過去、たびたび、戦火に燃え滅びる被害を繰り返していたからである。これは、天王寺にある太子創建とされる四天王寺も例外ではない。古代の寺院・仏閣で火災の被害に合わなかったのはほとんどなく、再建につぐ、再建を繰り返し、いまにつながっているものだ。  中乃太子といわれる野中寺をみてみよう。  これは、創建の機縁を蘇我馬子としているので、ほぼ間違いはないだろう。伽藍形式は古代の形式でもあるので、創建の推定も間違いない。  問題はここに馬子建立のかくたる理由である。周囲の地理的条件を見ても、馬子にかかわるものは、少し北にまわって、大聖勝軍寺とされる寺院であるが、これは、太子自身が、守屋との闘いに勝利するようにと請願し、その暁には、四天王寺を創建するという、いわくつきのものであった。  そして、この場所において、奇跡の「一撃」があった。馬子の傘下にあった弓の名手が、守屋を射止めたのである。そして、守屋は、大聖勝軍寺の前庭にある「首洗い池」にて、守屋を清め、馬子連合軍の勝利が定まったのである。

 

 

宇田川森和 1948年、山形県酒田市生まれ。 関西大学卒、日本文藝家協会会員、日本歴史作家協会会員。 40歳のとき、一念発起し、会社を起こした。その仕事は、出版社。で、手がけた図書はざっと900冊あまり。ここからデビューした作家も少なくない。著者インタビューはじつに、60人を超えた。 宮本輝さんは、昔からの仲間である。岳真也先生は、宇田川の心の師でもある。

 

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リレーエッセイ第10回 吉野由紀

花より猫より団子/吉野由紀

 

 リレーエッセイということで、どのキーワードから話を広げようか、迷っている。大の猫好きとしては、愛する猫ちゃんのラヴリィなことを書き連ねたいのだが、親ばかならぬ猫好きバカになりそうなのでやめておく。連想ゲーム的に考えると、猫→贅沢・おいしいものが好き……、うん、「茶店」でいこう。  もう何年も前だが、夏に箱根を旅したことがある。夏だったが、小雨もよいで少し肌寒かったような記憶がある。実際は晴れていたのかもしれない。木々の緑が鮮やかで、滴るようだったせいかもしれない。ふと温かいものが欲しくなり、ガイドブックに掲載されている茶店に寄ってみようと思った。  山の中、周りは鬱蒼とした森。国道なのか旧街道なのか、一本の道路沿いにその店はあった。創業は江戸時代だそうで、そのままタイムスリップしたかのようなたたずまい。茅葺の屋根、土間に設置されたテーブル。  メニューは甘酒と餅類、田楽など。一番人気という名物の甘酒とあべかわ餅(きなこ餅)を注文した。できあがりを待つ間、周りを観察。観光コースに組み込まれているのか、観光バスから降りた人々が一斉に甘酒とあべかわ餅を注文している。自家用車で訪れる家族連れ、路線バスでやってきた学生たち。みんな、甘酒と餅類を注文していた。ここはかなり有名なんだな、と思いつつも、大して味に期待はしていなかった。甘酒は甘酒、餅は餅。 ガイドブックに載ってはいても、たかがしれている、と。  周りのテーブルからは「え、おいしい!」と声が上がっている。もしかして、期待していいのか?ちょっとワクワクしてきた。早く来ないかな。来た来た!まずは、甘酒。ふうふう、ごく。今までの経験から、甘酒はあ・まーい、日本酒の匂いの白濁した飲み物という認識だった。でも、これは全然違う!さらりとして、麴の香り、ほどよい甘み、舌に滋味が広がる。後口もさわやかだ。少々苦手だったのに、こんなにおいしいなんて!  次はあべかわ餅。単なるきなこをまぶした甘いお餅でしょ。はむっ!きなことお砂糖の、大きさの違う粒子がさらさらと舌に触れる。ほのかに塩味。やさしい温みのある餅が、粒子の後に口内に触れてゆく。柔らかく伸び、コクがある。米そのものの風味の濃い、密度の高い餅。甘さと塩味のほどよいバランス。 「うまっ!」他の観光客もいい意味で驚いているようだ。  思いつきでひょいと寄ってみたが、景色よし風情よし味よしの三拍子そろった茶店だった。江戸時代から変わらぬ味らしく、当時の旅人はこの茶店の甘酒や餅にどれほど癒され、元気をもらったことだろう。現代でもいわゆる「峠の茶屋」という観光客相手の店はあるが、それだって十分楽しい。みたらし団子、あつ―い番茶、山歩きもいいな、とほっこり。  旅の途中で立ち寄った場所で、思いがけない発見があったり、おいしいものに出会ったり。新幹線の車内販売(駅弁の車内販売はなくなったが)の名産品や、高速道路のサービスエリアの地産品グルメ、道の駅など。どこでもチャンスがあったら寄ってみて、手に取ってみるといい。きっと、またリピートしたくなる忘れられない旅になるだろう。                 (了)

 

自己紹介:吉野 由紀。♀。 現在、東京都内のとある高校で、国語科教員をしています。ご縁があって、日本歴史時代作家協会の会員となっています。エッセイのお話をいただいて、書いてみたかったので飛びつきました。ご迷惑とお手数をおかけいたします。今後ともよろしくお願いいたします。

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