第401回 マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺
昭和五十三年四月(1978)
大阪 中之島 SABホール
長いタイトルの映画は『博士の異常な愛情』やウディ・アレンの『SEXのすべて』などいくつかあるが、中でも略称『マラー/サド』の元のタイトル、あまり長すぎて落語の寿限無を思わず連想してしまう。原作はペーター・ヴァイスの戯曲でドイツ語で書かれているが、背景はフランス革命後のフランス。それを英国のロイヤルシェイクスピア劇団が英語で上演し、演出家ピーター・ブルックが舞台そのままに映画化したのがこの作品である。
サディズムの語源ともなったサド侯爵。貴族でありながら、不道徳な行いによってバスティーユの牢獄に入っていたため、フランス革命ではギロチンにもかけられず、その後はナポレオンによってシャラントンの精神病院に死ぬまで幽閉される。文学者サドの作品の大半は、牢獄と精神病院で書かれた。
ペーター・ヴァイスの劇はタイトルそのまま、精神病院内でサドが戯曲を書いて患者たちに上演させたという史実に基づいている。革命の指導者のひとりジャン=ポール・マラーが皮膚病で自宅療養中、訪ねて来た美女シャルロット・コルデーに浴槽で暗殺される場面。これをサド侯爵自ら演出している設定である。
出演は舞台同様にロイヤルシェイクスピア劇団の俳優。サドを演じたパトリック・マギーは『時計じかけのオレンジ』で通り魔マルコム・マクダウェル一味に妻を強姦される作家だった。マラーのイアン・リチャードソンは『ラ・マンチャの男』の神父をはじめ、TV版のシャーロック・ホームズも演じている。コルデー役のグレンダ・ジャクソンは私の好きな英国コメディ『ウィークエンド・ラブ』でジョージ・シーガルの相手役だった。まさにシェイクスピア俳優たちによる精神病院の革命劇である。
マルキ・ド・サドの演出のもとにシャラントン精神病院患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺/he Persecution and Assassination of Jean-Paul Marat as Performed by the Inmates of the Asylum of Charenton Under the Direction of the Marquis de Sade
1967 イギリス/公開1968
監督:ピーター・ブルック
出演:パトリック・マギー、イアン・リチャードソン、グレンダ・ジャクソン