第380回 着ながし奉行
平成十四年二月(2002)
阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷
市川崑監督の『どら平太』が公開されたあとのこと、ラピュタ阿佐ヶ谷の岡本喜八監督特集で珍しいTV作品の上映があった。山本周五郎原作『町奉行日記』のTV版、フジテレビで一九八一年に放送された仲代達矢主演の時代劇スペシャル『着ながし奉行』である。
原作が同じなので、作り方もだいたい二〇〇〇年の『どら平太』と同じ。二十年の差があるが、古い『着ながし奉行』の方が私の好みである。特に仲代は軽い役がいい。それに江戸時代の雰囲気もこっちの方がずっとよく出ている。当時はまだTV時代劇が毎週たくさん作られていた時代だった。当然ながら撮影所のスタッフも大部屋も充実していたのだ。
国元に派遣される新任の町奉行は放蕩者で、それでも腕は立つし、実は頭も切れる。これが町人の扮装で、問題の不法地帯を遊び回り、親分たちと仲良くなって、結局は彼らに頼んで町をきれいにしてしまう。
不法地帯と癒着して私腹をこやしていた旧友の大目付は自害し、重職たちは若手と入れ代わり、国元の問題は解決する。そして、この町奉行はまた江戸へ戻り、生涯うだつがあがらなかった。
遠山の金さんに通じる面白さ。
この『着ながし奉行』で、新任の町奉行望月小平太をつけまわす若侍役を、当時無名塾にいた益岡徹と役所広司が演じていた。その役所広司が市川崑監督の『どら平太』で師の仲代と同じ役を演じるのも縁であろう。
私は市川崑のコメディも好きだが、岡本喜八の感覚はさらに垢抜けている。
一個所、日記を読み上げる場面で、十二月三十一日と読んだところあり。江戸時代は陰暦だから、月の満ち欠けが一か月、二十九日か三十日で、三十一日は存在しない。楽しいコメディ時代劇に細かな指摘は野暮ではあるが、ちょっと気になったので。
着ながし奉行
1981/TV放映1981
監督:岡本喜八
出演:仲代達矢、浅茅陽子、中谷一郎、近藤洋介、神崎愛、岸田森、小沢栄太郎、殿山泰司、岡本富士太、草野大悟、今福正雄、天本英世、北村英三、役所広司、益岡徹、大橋泰之、浜田寅彦