シネコラム

第381回 時をかける少女(1983)

飯島一次の『映画に溺れて』

第381回 時をかける少女(1983)

令和二年七月(2020)
池袋 新文芸坐

 筒井康隆の『時をかける少女』を最初に観たのは一九七二年のNHKドラマ『タイムトラベラー』だった。主役の芳山和子を演じた島田淳子はその後芸名を浅野真弓に変更し『柳生一族の陰謀』や『帰らざる日々』に出ていた。『タイムトラベラー』当時は原作通りの中学生だったのだ。
 何度も映像化されているが、『時をかける少女』といえば、やはり原田知世の映画デビュー作である大林宣彦監督作品が一番有名だろう。
 芳山和子は高校生で、ふたりの男子生徒、幼馴染でクラスメイトの深町一夫と堀川吾郎と仲がいい。ある日、理科の実験室でラベンダーの香りを嗅いで気を失い、それから不思議なことが出来する。危険を予知したり、同じ日を繰り返したり、時空を移動したり。ラベンダーの香りは時間移動の能力を高める未来の薬品だった。
 実は公開当時、私は角川のアイドル映画というだけで敬遠してしまい、『時をかける少女』も『ねらわれた学園』も『セーラー服と機関銃』も観ていなかった。今回、大林監督が亡くなられて、特集上映が行われ、池袋の新文芸坐で初めて鑑賞した。
 原田知世の瑞々しさ。思えば、私は原田の出演作もほとんど観ていなかったのだ。
 映画は私を昭和の尾道へとタイムスリップさせてくれた。深町の祖父母が暮らす温室のある家、吾郎の実家の醤油屋、尾道の町のたたずまいがまるで時代劇のセットのように描かれており、『転校生』『さびしんぼう』とともに尾道三部作と呼ばれ、今でもファンがロケ地を求めて訪れるという。
 原田知世ふんする芳山和子が、映画の中の様々なシーンを時空移動しながら主題歌を歌う凝ったエンディング、まさに時をかける少女である。
 大林作品はその後の自主映画界に大きな影響を与えた。

 

時をかける少女
1983
監督:大林宣彦
出演:原田知世高柳良一尾美としのり、津田ゆかり、岸部一徳根岸季衣内藤誠入江若葉上原謙入江たか子