第373回 セッション
令和二年六月(2020)
新所沢 レッツシネパーク
コロナ禍で試写にも映画館にも行かなかったので、三か月ぶりの映画鑑賞である。やはり映画館で観る映画は感動が違う。
今回は以前に見逃していた『セッション』を観る。映画館は緊急事態が解除されてぼつぼつと上映を再開しているが、新作の話題作や大作はあまり公開されていないようだ。思うに、今はまだコロナが収束しておらず、話題作を上映しても観客動員は見込めない。そこで、人気のありそうな作品は収束後に先送りして、旧作の名作を上映している。これはこれで、見逃した映画が大画面のスクリーンで観られるのだから、うれしい。
さて、『セッション』は当時ベストテンなどで上位に入っただけあって、大いに見応えがあった。
いきなり響くドラムの音。叩いているのは名門の音楽大に入学したばかりのアンドリュー。その才能に目をつけた教師のフレッチャーが自分のバンドの練習に来るよう誘う。数々のコンクールで優勝する名物教師。が、これがとんでもないスパルタ教師で、初日でアンドリューは罵られ、殴られ、泣かされてしまう。
ここから才能のある純情青年と鬼教師との熾烈な戦いが始まる。
教師はチャーリー・パーカーがシンバルを投げつけられたエピソードを引き合いにして言う。「なかなか上手だよ」なんて下手に褒めたら、天才は生まれない。
アンドリューはドラムのことしか頭になく、猛練習で才能を発揮していくのだが……。
J・K・シモンズ演じる鬼教師が実に見事。完璧を目指すためと言いながら、実は有能な若者を虐めて潰すことに内心喜びを覚えているのではなかろうか。
私はスポーツ根性ドラマの鬼コーチがぞっとするほど大嫌いで、そんなサドマゾを美談に仕立てたような話は観たくもない。この『セッション』が実によくできているのはフレッチャー先生を卑劣でずる賢く血も涙もない徹底的な悪役にしているからだ。
マイルズ・テラーの天才ドラマーぶりも素晴らしい。ラストの盛り上がり、画面を見ながら体が自然に動いてしまった。
セッション/Whiplash
2014 アメリカ/公開2015
監督:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ、ポール・ライザー