シネコラム

第372回 モダン・タイムス

第372回 モダン・タイムス

昭和四十七年十一月(1972)
大阪 梅田 阪急プラザ劇場

 

 赤狩りでハリウッドを逃れスイスで暮らすチャールズ・チャップリンに、一九七二年、アメリカのアカデミー賞名誉賞が贈られた。
 その年、東宝系の映画館では「ビバ・チャップリン」と題したチャップリンを讃える特集が組まれ、有名作品が次々とロードショー公開され、その第一作が『モダン・タイムス』だった。
 チャップリンといえばチョビ髭に山高帽、ステッキにドタ靴、その風貌はもちろん子供の頃からよく知っていた。しかし、映画館でのチャップリン、しかも長編を観るのは、私はこれが最初だった。
 大工場のベルトコンベアの前で作業する労働者チャップリン。常にスパナでネジを締めているので、丸いものがあると女性の洋服のボタンさえスパナで締めようとする。
 工場では能率化をはかるため、労働者が食事するのを機械仕掛けにして、チャップリンを実験台に使うが、機械のスピードが速すぎて、むちゃくちゃに。
 とうとうチャップリンは異常をきたし、解雇されて浮浪者となる。
 工事現場へ向かうトラックが道に赤い旗を落とす。チャップリンは拾って、おおい、落ちたよと旗を振って合図すると、いきなり後ろに労働者のデモ行進。先頭で赤旗を振っていたので首謀者として逮捕される。といったギャグに大笑い。
 そしてレストランで『ティティナ』を歌う有名な場面である。
 多数のサイレント映画に出演し、トーキー時代になってもサイレントにこだわったチャップリンが、この映画で初めて歌ったのだ。
 わかりやすい大衆的な笑いの奥底に、権力や体制に対する皮肉や怒りが込められていて、大好きな一本である。
 このあと「ビバ・チャップリン」では『街の灯』『独裁者』『ライムライト』『殺人狂時代』など、次々と公開された。大劇場の大画面で観たチャップリン映画、忘れられない。

モダン・タイムス/Modern Times
1936 アメリカ/公開1938
監督:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリンポーレット・ゴダード、ヘンリー・バーグマン、チェスター・コンクリン、アラン・ガルシア