第360回 吹けよ春風
平成十一年四月(1999)
京橋 フィムルセンター
三船敏郎といえば、剣豪や豪傑、凄腕の素浪人といった時代劇が多いが、その三船が主演のコメディタッチの現代劇。終戦からまだそんなに経っていない東京を舞台に、タクシーの運転手が見た人間模様を描いた佳作である。
岡田茉莉子と小泉博のカップル。痴話喧嘩しながらも最後は仲良く降りて行く。
大勢の子供たちを乗せて銀座をまわるエピソードは自動車がまだ珍しく、簡単に乗れない時代を思い出させる。
舞台の大スター越路吹雪を乗せて「黄色いリボン」の替え歌をふたりで歌う。三船が歌うのだ。
青山京子の家出娘を乗せて東京駅まで送ったが、心配で連れ戻す。が、途中で去って行く。あの娘はどうなるのだろう。
小林桂樹と藤原釜足の酔っぱらい二人。小林は走るタクシーのドアから外へ抜け出して車の上を通って反対側のドアから入って来るのが得意だと繰り返し、とうとういなくなる。あわてて外を探すがどこにも落ちていない。すると、座席の下で鼾をかいて酔い潰れている。
三国連太郎は若いタクシー強盗。
復員兵とおぼしき山村聰とその妻山根寿子。どうやら山村は刑務所に入っていたらしい。それを世間体もあり、子供の手前もあるので、復員してきた風に装っている。そういう時代なのだ。
そんな軽いスケッチのようなエピソードが次々と流れ、最後に家出娘が母親と仲良く銀座で買物している姿を見つけて安心する。観ている観客もほっとする。
昭和二十八年、実は私の生まれた年である。だからよけいに懐かしい。
吹けよ春風
1953
監督:谷口千吉
出演:三船敏郎、小泉博、岡田茉莉子、青山京子、越路吹雪、小林桂樹、藤原釜足、小川虎之助、三好栄子、島秋子、三國連太郎、山村聰、山根寿子