シネコラム

第359回 鬼火

第359回 鬼火

平成十九年一月(2007)
阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷

 怪談でもホラーでもないのに、これが妙に怖いのだ。
 終戦後の東京。
 加東大介ふんする主人公はガスの集金人である。昔は銀行の自動引き落としなどないから、受け持ち地区を一軒一軒、集金人が料金を集めて回る。
 勝手口から覗き込んで、無人の台所にガスがつけっぱなし、湯が煮立っていたりすると、親切に火を止めて、そこの家の主人に叱られたり。悪い人間ではない。
 新しい担当地区に支払いが滞っている家がある。戦前は金持ちだったらしいが、戦後は没落して苦しい生活をしている様子。
 この家の奥さんが津島恵子。病気で寝たきりの夫が宮口精二。落ちぶれたとはいえ、奥さんはなかなかの美人。
 ガス代が払えなければ、ガスを止めるしかない。
 が、そうなるとこの家は病人の薬を煎じることができないので困るのだ。
 そこでガスの集金人はよからぬ欲望を抱く。ガス代はなんとか立て替えてやるから、夜、俺の下宿へ来い。そんな提案を持ちかける。
 そして、その夜、待っているとほんとうに奥さんがやって来る。
 そこから一気に怖い結末となる。
 怪談ではないが、最後、ぞっとした。
 原作は吉屋信子。脚本は菊島隆三
 そういえば、加東大介津島恵子宮口精二も三人とも『七人の侍』に出ているのだ。

 

鬼火
1956
監督:千葉泰樹
出演:加東大介津島恵子宮口精二中村伸郎、中田康子