シネコラム

第361回 壁女

第361回 壁女

平成二十三年九月(2011)
西東京 保谷こもれびホール

 西東京市で毎年開催されている西東京市民映画祭自主制作映画コンペティションの審査員を、第一回より何年か続けてやらせていただいた。全国から寄せられた短編作品の中から各賞を選ぶのだが、プロと見紛う達者な作品、アイディア勝負の個性派、手間暇かけて作った労作。印象的なたくさんの作品に出会うことができた。
 中でも忘れられない作品のひとつが『壁女』である。タイトルだけで、どんな内容だろうと想像をふくらませた。壁女という妖怪の出てくる怪談だろうか。
 予想は見事に外れた。
 休日に河川敷などに出かけ、壁にべったりと張り付き、自動タイマーで撮った写真をブログに掲載するのが趣味というOLの話。
 一人暮らしのアパートは散らかり放題の汚さ、食事は毎度カップ麺、職場ではいつも遅刻して叱られている。そんな彼女が恋をする。そのいじらしい恋の顛末を描いた異色コメディで、十七分の短編ながら伏線を張り巡らした密度の濃い内容、大変味わい深かった。
 監督は原田裕司、主演は仁後亜由美。
 翌平成二十四年、下北沢トリウッドで原田裕司監督特集があり、再び『壁女』を観た。同時上映が『コーヒー』『苦顔』『冬のアルパカ』、四本全部合わせて八十七分。トリウッドは短編を中心に上映するミニシアターで、下北沢の南口商店街を抜けた小さな雑居ビルの二階にある。初めてここへ来たときは、見つからなくて探し回り、さんざん迷ったあげく郵便局で尋ねてようやくたどり着いたのだった。
『コーヒー』と『苦顔』はどちらも個性の強い主人公の生き方を描いたラジカルできわどい作品。『冬のアルパカ』は『壁女』の仁後亜由美主演で、アルパカを飼う女と、彼女に金を貸しているローン会社の取立て屋との奇妙な交流。アルパカと雪国と変な人たち。
 自主映画の中には、商業映画よりも面白い作品が実はたくさんある。自主製作映画コンペティションの審査に毎年予選から参加して、夏の間に数えきれないほどの短編を見続けたこと、いい経験だったと今でも思っている。

 

壁女
2011
監督:原田祐司
出演:仁後亜由美、朝倉亮子、阪東正隆、伊藤公一、香取剛、後藤慧、鈴木敬子、竹田尚弘