シネコラム

第339回 しゃべれどもしゃべれども

第339回 しゃべれどもしゃべれども

平成十九年六月(2007)
池袋 シネリーブル池袋1

 この映画は二度観ている。最初、池袋のシネリーブルで観て、そのあと、佐藤多佳子の原作小説を読み、もう一度、今度は飯田橋ギンレイホールで観たのだ。
 私は映画と原作は別物だと思っている。原作の小説がとてもよくできた傑作なのに、ずたずたに改悪して、配役もひどくて、映画が最低の駄作になっている場合がたまにある。なにとはいわないけれど。
 逆にちょっとした短編小説がふくらまされて傑作映画になる場合もある。山本周五郎の『日日平安』が黒澤明の『椿三十郎』になったように。
 この『しゃべれどもしゃべれども』の場合はどうかというと、映画と原作はかなり違っている。が、小説もいいが、原作がこれまた、いい出来栄えなのだ。
 国分太一ふんする今昔亭三つ葉は二つ目である。なかなか真打になれずに焦っている。祖母とふたり暮らしで、このお祖母ちゃんが八千草薫。で、三つ葉がひょんなことから落語教室を自宅で開くことになる。
 美人なのにいつもぶすっとして人付き合いが苦手な五月。大阪から転校してきて言葉をからかわれる小学生の優。元プロ野球の有名選手で引退後は野球解説をしているが、あまりの下手さに自分で落ち込んでいる湯河原。
 この三人を相手に落語を教えながら、自分もいつしか成長していく三つ葉
 小説の重要な登場人物のひとりが映画ではいなくなっており、三つ葉の家は小説では吉祥寺だが、映画では都電の走る下町風景に溶け込んでいる。五月も小説ではOL、映画では線路沿いのクリーニング屋の店員。
 映画は映像で見せるので、脚色も演出も相当にうまいと思う。
 国分の落語、決して達者ではないが、二つ目の役なのでこんなものか。湯河原を演じた松重豊、いつもヤクザか刑事の役が似合う強面なのに笑いのセンスが抜群。師匠の伊東四朗が本物の落語家そのものの貫禄と味わい。

 

しゃべれどもしゃべれども
2007
監督:平山秀幸
出演:国分太一香里奈森永悠希松重豊八千草薫伊東四朗山本浩司