シネコラム

第340回 幽霊繁盛記

第340回 幽霊繁盛記

平成二十二年六月(2010)
神保町 神保町シアター

 フランキー堺といえば、川島雄三監督『幕末太陽伝』での居残り佐平次があまりに有名であるが、他に大学出の落語家を演じた『羽織の大将』などもあり、本人も桂文楽に師事していたほどで、落語とは縁が深い。
 神保町シアターの落語映画特集で上映された『幽霊繁盛記』は古典落語の『死神』が元ネタである。
 フランキーふんするは早桶屋の八五郎。早桶というのは、つまり棺桶で、江戸時代は今のように横に寝たまま納まる棺ではなく、円筒形の酒樽や漬物桶のような形だった。
 親方のところを独立して、医者の娘のおせつと所帯を持つが、なかなか商売がうまくいかない。
 この八五郎がふとしたきっかけで死神と出会い、親しくなる。これが有島一郎でぴったりの役柄。
 死神のあとを追っかけ、死人の出た家にすぐに飛び込んで早桶を売り込み、商売繁盛。そうこうするうち、病人の枕元に死神が座ると、それはもう助からない。足元に座っていたら回復するということを知り、医者に転向。
 死神のおかげで病人を死ぬか助かるか診たてるだけで、実力はないのに、名医の評判を得る。先生先生とおだてられ、ふんぞり返って女房に嫌われる。
 ところが身重の女房が重態となり、驚いたことに、死神が女房の枕元に。なんとか助けてくれと、死神に掛け合うのだが。
 人間には寿命というものがあって、だれにも変えることはでない。死神の住まいには無数のろうそくが灯されていて、それはみんな人の命を表している。長いろうそくはまだまだ長生きできる命。短くて今にも消え入りそうなろうそくは死期が間近に迫った命。八五郎は果たして落語『死神』同様の運命をたどるのか。

 

幽霊繁盛記
1960
監督:佐伯幸三
出演:フランキー堺香川京子柳家金語楼有島一郎森川信、若宮忠三郎、東郷晴子、沢村いき雄、左卜伝、武智豊子