シネコラム

第338回 落語娘

第338回 落語娘

平成二十年九月(2008)
新宿歌舞伎町 ミラノ3

 呪いの落語。演じる落語家が次々に変死しているという事実。このだれもやらない落語に隠された魔力とは。ちょっと怪談仕立ての寄席話。
 香須美は子どもの頃から落語が好きで、高校、大学と落研、学生落語コンクールでは常に優勝、そんな彼女が憧れの正統派古典の名手三松家柿紅に弟子入りを志願するも断られる。「寿司屋に入って、若い女の職人が握っていたら、そんな寿司は食いたくない」といわれて。
 どんなに努力しようと、女には無理な世界なのか。それを横から型破りの師匠三々亭平佐が拾ってくれて、弟子となり前座となって、その名も三々亭香須美。ところが平佐師匠、寄席には出ないで、ギャラのいいTVのバラエティショーばかり。生放送で大物政治家をからかって仕事を干され、目下謹慎中。満足に稽古もつけてくれない。
 金に困った平佐師匠がTVのやり手プロデューサーに乗せられ、とうとう四十年年間封印されている呪いの禁断落語に挑戦することに。
 津川雅彦扮する三々亭平佐は、型破りながら、実は正統派の江戸の世界をきちんと表現できる力量の持ち主。実にいい。益岡徹の三松家柿紅も見事。そして香須美のミムラ、前座という設定なので咄を無理なく聴かせる。
 客席のなぎら健壱、楽屋のベンガル、政治家の峰岸徹上方落語家の未亡人の絵沢萌子、みな存在感がすばらしい。
 私は正統派の古典落語は大好きだが、型破りの新作をやる人も実は好きだ。寄席のいいところは、古典派も新作派もベテランも新人も上手も下手もごった煮のように次から次へと登場すること。講談界では女性講談師がたくさんいるのに、女性の落語家はまだまだ少ない。それはともかく、こういう映画を観ると、寄席に行きたくなる。大声で笑うのは健康にもいいそうなので。

 

落語娘
2008
監督:中原俊
出演:ミムラ津川雅彦益岡徹、伊藤かずえ、絵沢萌子利重剛なぎら健壱