シネコラム

第303回 独裁者

第303回 独裁者

昭和四十八年十月(1973)
大阪 梅田 北野劇場


 アドルフ・ヒトラーチャールズ・チャップリン、同じ年の同じ月に生まれ、どちらもチョビ髭、同じく世界的な有名人。
 一九三九年、ナチスドイツによるポーランド侵攻の年、チャップリンは映画『独裁者』に取り掛かった。
 主人公はふたり、ひとりは貧しいユダヤ人の床屋。もうひとりはトメニア国の独裁者ヒンケル。床屋は第一次大戦に兵士として駆り出され、頭に負傷する。その間、ヒンケルによるトメニア国の独裁政権樹立。
 床屋を中心にしたユダヤ人迫害物語と、ヒンケルを中心にした世界征服の野望。このふたりの主人公をともにチャップリンが演じる。そして、大いに笑わせてくれる。床屋がハンガリアン舞曲に合わせて客の髭を剃るシーンなど、今思い出すだけで笑ってしまう。
 ユダヤ人を差別し、迫害し、抹殺しようとする独裁者ヒンケルが、ユダヤ人の床屋と瓜二つ。金髪碧眼のアーリア人種優位を説く張本人が黒髪の小男。なんという皮肉。
 将校の軍服を盗んで収容所を脱走した床屋を兵士たちはヒンケルと思い込み、一方、湖畔でひとり鴨狩りを楽しんでいたヒンケルは脱走した床屋と間違えられて逮捕される。床屋は総統と間違えられたまま、侵攻した隣国の首都で、兵士と民衆を前に演説することに。それまでトーキーを積極的には取り入れなかったチャップリンが、ここで、長い演説を行う。
 アメリカでの映画の公開は一九四〇年。軍事力を背景にヒトラーの権力が全世界に広がろうとしていたその時期。ドイツと同盟を結んでいた日本では、ヒトラーを茶化したこの作品、公開は戦後の一九六〇年まで待たねばならなかった。


独裁者/The Great Dictator
1940 アメリカ/公開1960
監督:チャールズ・チャップリン
出演:チャールズ・チャップリンポーレット・ゴダード、レジナルド・ガーディナー、ジャック・オーキー、ヘンリー・ダニエル、ビリー・ギルバート、モーリス・モスコビッチ

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